カイコン

25.魂振り

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25.魂振たまふ

「みんな逃げて! あれに触らないで! 死ぬわよ!」
ちさとが、上空から川沿いの通行人に叫んだ。

「危ないぞお! 早く逃げろ!」
和尚も真似して空を指し、大声を上げる。

大げさだが、効果てきめんだ。
上空を、謎の巨体がやって来る。それを認めた通行人は、こぞって逃げ出した。

パトカーが、サイレンを響かせて到着した。
警官達が、わらわらと交通規制を敷き始める。

「なんか、今日は色々と対応が早いな」
和尚(おしょう)が感心した。事前に届け出しておくと、こんなに違うのだろうか。

なんにせよ、野次馬の安全は、もう考慮しなくていい。

二人は、いったん川沿いに降り立った。
ここまで飛びっぱなしだ。
だが、本番はここからである。

先っちょは、高度を下げて、明らかに川を目指していた。

和尚は、見上げて確信した。
「やっぱりだ。あいつ、川に入ろうとしてる」

「ふふ、これで思いっきりやれるわね」
ちさとが、ウインクを寄越した。
可愛くない、食えない女の色気たっぷりだ。

和尚も、にやりと笑い返した。
危険を楽しむ男の、余裕が漂っている。

無言で、二人は同時に飛び立った。

上空から川に侵入して、流れの真ん中で待ち受ける。

ざあああっ……

来た。

どす黒いコインの群れが、上からなだれ込んでくる。
野太い円筒状の形を保ったまま、川の流れに沿って、水面すれすれを進んで来るのだ。

とんでもなく長い。
なかなか終わりが来ない。

和尚は、先っちょから一定の距離を保って、バックのまま飛び続けた。
和尚の後ろで、ちさとも同様に飛んでいる。
彼女の方は、かなり距離を取って、進行方向にも目を配っていた。

「和尚、橋よ!」
警告が飛んだ。
「っとぉ」
すんでのところで、和尚が飛び越える。

荒魂(あらみたま)の方は、お化けのように、すうっと通り抜けていった。
実体が無くてよかった。ぶち当たっていたら、バキバキに壊されている。

一回だけじゃない。また、橋。さらに、橋。
「多過ぎだろ」
ぼやく和尚に、着ている(かみしも)が指摘した。
「でも、どの橋も無人ですよ。ずいぶん広範囲に交通規制が敷かれているようです」

「そいつは重畳(ちょうじょう)
噴き出すコインの柱の中に入った人間は、みんな倒れて意識不明となっているのだ。
コインの群れは、今や川幅いっぱいに渡って来る。
橋の上にいたら、いちころだ。

とうとう、広い流れに出た。
隅田川と合流したのだ。
コインの大群は、さらに水面の上を、川下へと進んでいく。

ずずず……

すると、群れの途中から、別の群れが生えてきた。
途中から、二股に分かれた形になったのだ。

川の流れも、分岐している場所だった。
派生した新たな先っちょは、隅田川ではなく晴海運河の方へと進んで行く。

だが、和尚は気付かない。
ちさとも同様だった。なにしろ長すぎる。

隅田川の川幅は、ぐんと広くなった。
円筒形の群れは、流れの真ん中をやって来る。

と、先っちょが、水面に突っ込んだ。
ずぶずぶとダイブしていく。

びしいぃっ……!

何の音なのかは、まだ水面に没していない尾っぽを見れば分かった。

「コインが、揃った」

和尚が呟いた。
バラバラに飛んでいた、どす黒いコインが、音を立てて一気に揃ったのだ。
まるで、お行儀よく並んだ、(うろこ)のように。

長い円筒形の体。そして、鱗。
それは何だ?

「来ますよ、和尚」
着ているシルキング0号機の声に、和尚は前方を睨んだ。

ずずずずず……
水面が盛り上がる。

ばしゃあ!!!!

派手な水音と共に、「そいつ」が出て来た。

つるりとした細長い頭。
らんらんと光る、深紅の丸い目。
ちらちらと覗く長い舌は、炎を吐き出しているかのよう。

「蛇、か……」

コインの群れの時より、明らかにデカくなっている。
こっちが頭で間違いなさそうだが。
こいつに、カイコンを嵌めろとな。

ごくり、と唾を呑んだ。その瞬間。

「和尚、避けて!」
ちさとの声と共に、後ろから矢が飛んで来た。

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