オニマイ(総フリガナ版)

5.暴露扇(ばくろせん)(総フリガナ版)

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5.暴露扇ばくろせん

大江山(おおえやま)女子中(じょしちゅう)学(がく)高等(こうとう)学校(がっこう)、体育館(たいいくかん)。
高(たか)らかな悲鳴(ひめい)が、今(いま)まさに響(ひび)き渡(わた)ろうとしていた。

当然(とうぜん)だ。いきなりの「鬼(おに)」出現(しゅつげん)である。

青(あお)鬼(おに)の肢体(したい)は、形(かたち)のよい筋肉(きんにく)で覆(おお)われていた。
派手(はで)な盛(も)り上(あ)がりは無(な)いが、しなやかな強(つよ)さを感(かん)じさせる。

そして美(うつく)しかった。
青(あお)いファンデーションを塗(ぬ)ったような顔(かお)。
さっきまで黒(くろ)ゴムで一(ひと)つに結(むす)んでいた黒髪(くろかみ)が、暴風(ぼうふう)で解(と)けてストンと落(お)ちている。
その頭(あたま)のてっぺんには、一本(いっぽん)の角つの──

青木(あおき)さん、よね……。
真維(まい)は、息(いき)を呑(の)んで体操服(たいそうふく)姿(すがた)の青(あお)鬼(おに)を見(み)つめた。間違(まちが)いない。ゼッケンに書(か)いてある。

級友(きゅうゆう)たちも、それは分(わ)かっているようだった。
だが、怖(こわ)いものは怖(こわ)い。
異形(いぎょう)の姿(すがた)を前(まえ)に、皆(みんな)、じりじりと後(あと)ずさる。

「き」
きゃあ、と叫(さけ)び声(ごえ)が上(あ)がろうとした瞬間(しゅんかん)。

さっと、青(あお)鬼(おに)の青木(あおき)さんが右手(みぎて)を動(うご)かした。
自分(じぶん)の角(つの)を掴(つか)む。
そして、高(たか)らかに言(い)い放(はな)った。

「召喚(しょうかん)!」

ざあっ
辺(あた)りの様子(ようす)が一変(いっぺん)した。

いきなり、体育館(たいいくかん)の照明(しょうめい)が落(お)ちた。
昼(ひる)だから真(ま)っ暗(くら)にはならない筈(はず)だ。それなのに、あたりは漆黒(しっこく)の闇(やみ)に包(つつ)まれた。

急(きゅう)に訪(おとず)れた暗闇(くらやみ)に、パニックになる暇(いとま)もない。

ぽ・ぽ・ぽ・ぽ・ぽっ
軽(かろ)やかな音(おと)が、連続(れんぞく)して響(ひび)いた。
蝋燭(ろうそく)が、ずらりと灯(とも)る。

ろうそく?
真維(まい)は、信(しん)じられない思(おも)いで見渡(みわた)した。
白(しろ)くて細長(ほそなが)い、上部(じょうぶ)がふっくら太(ふと)い形状(けいじょう)の和蝋燭(わろうそく)だ。
だが、燭(しょく)台(だい)が無(な)い。宙(ちゅう)に浮(う)いている……。

「いよおぉ~!」
どこからか、威勢(いせい)のよい掛(か)け声(ごえ)がかかった。

ぽん!
太鼓(たいこ)の音(おと)が応(こた)えた。

はっと皆(みんな)が気(き)づいた時(とき)には、全(すべ)ての準備(じゅんび)が整(ととの)っていた。

小鬼(こおに)が、体育館(たいいくかん)のフロアーに勢揃(せいぞろ)いしていた。
みんな青(あお)鬼(おに)だ。
お揃(そろ)いの白(しろ)い作務衣(さむえ)を着(き)て、それぞれ和楽器(わがっき)を携(たずさ)え、ちょこんと立(た)っている。

小鬼(こおに)の楽団(がくだん)だ──

立(た)て続(つづ)けの非常識(ひじょうしき)な展開(てんかい)に、級友(きゅうゆう)達(たち)は叫(さけ)ぶのも忘(わす)れている。

美(うつく)しい青(あお)鬼(おに)は、怯(おび)えと嫌悪(けんお)が混(ま)じった眼差(まなざ)しの攻撃(こうげき)に晒(さら)されながらも、凛(りん)と立(た)っていた。
宙(ちゅう)に浮(う)かぶ蝋燭(ろうそく)の光(ひかり)が、さながらスポットライトのように姿(すがた)を照(て)らし出(だ)す。

そして演奏(えんそう)が始(はじ)まった。

 ア、ソレ 青(あお)は一本(いっぽん)
 赤(あか)は二本(にほん)
 角(つの)は我(われ)らの頭(あたま)の上(うえ)
 お天道様(てんとさま)は そのまた上(うえ)
 ヤレ こともなし

小鬼(こおに)が楽(たの)し気(げ)に歌(うた)い出(だ)した。
笛(ふえ)が陽気(ようき)なメロディーを奏(かな)でる。
鉦(かね)や太鼓(たいこ)がリズムを刻(きざ)む。

青(あお)鬼(おに)の美(び)少女(しょうじょ)は、しなやかに舞(ま)い始(はじ)めた。

音(おと)に合(あ)わせ、足(あし)が床(ゆか)を蹴(け)り、腕(うで)が空(そら)を裂(さ)く。
素早(すばや)く回転(かいてん)し、美(うつく)しいポーズで静止(せいし)する。
振(ふ)り乱(みだ)す黒髪(くろかみ)すら、踊(おど)りの一部(いちぶ)だった。
顔(かお)に被(かぶ)さろうとも、かまわずに踊(おど)り続(つづ)ける。

ふっと、黒髪(くろかみ)の隙間(すきま)から覗(のぞ)く目(め)が観客(かんきゃく)を射(い)た。
全(すべ)てから滲(にじ)み出(だ)す、揺(ゆ)るぎない自信(じしん)──

「きれい……」
うっとりした呟(つぶや)きが、どこからか漏(も)れた。
見(み)ている者(もの)の総意(そうい)であった。
これは極上(ごくじょう)の和楽器(わがっき)ミュージカルだ。

 ア、ソレ 青(あお)は一本(いっぽん)
 赤(あか)は二本(にほん)
 角(つの)は我(われ)らの命(いのち)の証(あかし)
 踊(おど)れ 月夜(つきよ)の晩(ばん)に集(つど)えや
 ヤレ めでたや

蝋燭(ろうそく)が増(ふ)えてる……。
宙(ちゅう)に浮(う)かぶ和(わ)蝋燭(ろうそく)が、ぽんぽんと闇(やみ)から出現(しゅつげん)してくるのだ──そう、踊(おど)りが熱(ねつ)を帯(お)びるにつれて。

更(さら)に明(あか)るく照(て)らし出(だ)される青(あお)鬼(おに)を、みんな、ぽうっと頬(ほほ)を染(そ)めて見入(みい)っている。
酔(よ)っているかのような潤(うる)んだ瞳(ひとみ)で。

まるで何(なに)かの術(じゅつ)にかけられてるみたい──
真維(まい)は首(くび)を傾(かし)げた。
あ、あれ? 正気(しょうき)なの私(わたし)だけ?

ちらちら
白(しろ)無地(むじ)だった蝋燭(ろうそく)に、ピンクの絵柄(えがら)が浮(う)かんできた。桜(さくら)の花(はな)びらだ。
しかも、絵(え)なのにヒラヒラと動(うご)いている。

小鬼(こおに)達(たち)の演奏(えんそう)は、最高潮(さいこうちょう)に達(たっ)した。
所狭(ところせま)しと、宙(ちゅう)に蝋燭(ろうそく)が浮(う)かぶ。その白(しろ)い円筒(えんとう)に映(うつ)し出(だ)されるのは、舞(ま)い散(ち)る桜(さくら)吹雪(ふぶき)。

美(び)の極(きわ)みだ。

うっとりと心(こころ)を奪(うば)われた観客(かんきゃく)を見届(みとど)けると、青(あお)鬼(おに)は踊(おど)るのを止(や)めた。

すっ
右手(みぎて)で、自分(じぶん)の頭(あたま)に生(は)えた角(つの)を掴(つか)む。
そして唱(とな)えた。

「忘却(ぼうきゃく)!」

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