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6.暴露扇
ざんっ!
真維の耳に、バケツの水をぶちまけたような音が響いた。
目をぱちくりさせて、辺りを見渡す。
あれ? 元のままの体育館だ。
青い小鬼の楽団も、宙に浮かぶ蝋燭も、跡形もなく消え失せていた。
級友達は、踊りに心を奪われていた姿勢のまま、静止していた。まるで蝋人形の群れだ。
一人、二人と、うつろな目をパチパチさせて、ようやく動き出す。
「えっと、なんだっけ?」
「先生遅いわよね」
「でも、そろそろ整列しておかない?」
誰も、さっきの出来事を話さない。
真維は唖然とした。
覚えてないの?!
「は~い、整列! 授業を始めまーす」
そこに先生が体育館に駆け込んできた。
壁の時計を見たら、5分も遅刻だ。
「先生、大仏さんが扇を忘れてしまったそうなので、準備室に予備を取りに行ってきます」
すっと先生に近づいたのは──青木さんだ。
彼女も元に戻っている。
角なんか、どこにも見当たらない。
いつのまにか、髪も校則通りに結んでいる。
「ああ、青木さん、体育委員さんだったわね。ありがとう。準備室の場所は分かる?」
「はい、私、ダンス部なので。扇の場所も分かりますから」
真維は、そこでようやく気が付いた。
扇が無い! 私、持ってた筈よね。
「先生! すみません、私も一緒に行ってきます」
ぺこっとお辞儀してから、慌てて追いかけた。
おぼろげだが、音が響いた瞬間、ふっと手が軽くなった気がする。
きっと、あのとき盗られたんだわ。
「青木さん!」
振り返った顔は、冷たく整っていた。なんの感情も読み取れない。
真維は、きょろきょろと辺りを見渡した。
大丈夫。授業中だから、渡り廊下には誰もいない。
それでも声を落とし、さらに背伸びをして、真維は青木さんに耳打ちした。
「あのね、青木さんって、青鬼さんなの?」
無表情の仮面が、一撃で剥がれ落ちた。
驚愕で瞳が見開かれる。
だが、真維の態度は信用に足るものだった。
ちゃんと人目を気にして尋ねてくれている。
真剣な表情だ。嫌悪も怯えも、そして揶揄すら浮かんでいない。
「……忘れてなかったのね」
さっきの一幕だ。
こくん
真維は真面目な顔のまま頷いた。なんで自分だけが覚えているのかは分からないが。
ふっ
冷たいほど整った顔が、柔らかく溶けた。
暖かい微笑みだ。
「そう。分かったわ、大仏さんにはちゃんと話す。放課後、時間ある? 部活は?」
「あ、まだ何も入ってないの。だから大丈夫」
その返事に、何故かキラリと青木さんの目が光った。
喩えるなら獲物を見つけた鷹の目だ。
「じゃあ、その時に扇は返すわ。それまでは預からせて。あれは、危険なの」
よく分からないが、真維は素直に頷いた。
色々と尋ねてみたいこともある。
「鬼の嫁攫い」の手がかりも、何か掴めるかもしれない……。

今回は区切りの都合で短くなってしまいました。
せめて次回予告イラストをアップしておきますね~↓




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