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10.万変扇
「ばんぺんせん?」
真維が首を傾げた。
二奈が手にしているのが、そうらしい。
真維の「暴露扇」に似た扇だった。
大きさは、ほぼ同じ。中骨に入った透かし模様が、ちょっと違うくらいだ。
だが、扇面と房は真っ白だった。
柄や骨は木製なのだろうか。なんだか艶が無い。カサカサに枯れた割り箸みたいだ。
「祖父に聞いたことがあります。万変扇ですよね。赤鬼族に伝わるものだと」
ぼむ!
久喜部長は、あっさり自分も赤鬼に戻った。
二奈に比べると、薄めの赤い肌だ。隈取も無い。
短い黒髪から覗いている角は、二本。それを一つ取り外す。
「え! それ外せるんですか?」
驚いた真維に、頭のてっぺんを向けてみせた。
「めったに外すものじゃないけどね」
苦笑するのも無理はない。
そこには、芯と思われる物がむき出しになっていた。白いから、これは骨なんだろうか。
「どうぞ、鬼多見コーチ。赤鬼の角から気を吸い取る必要があるのでしょう」
ぼむ! ぼむ!
残った二人も、赤鬼の姿に戻った。
どうやら同族同士、警戒を解いた様子だ。
「ありがとう。久喜の先代はお元気?」
「はい。やっぱりコーチは族長の娘さんだったんですね。苗字で、そうじゃないかと」
部長さんは感づいていたらしい。
なるほど。鬼同士でも「自分は鬼です」って打ち明けているわけじゃないのね。
真維が納得していると、ちょこちょこと小鬼二人が補助バッグから這い出て来た。
「太郎丸、扇に角を挿して」
「はっ」
古武士みたいな小鬼が、二奈から万変扇と部長さんの角を受け取った。
茶色い円錐形の底面には、ジャストサイズの窪みがある。扇の根元を、そこに差し込んだ。
じわ~
扇面の白が、根元から徐々に赤く染まっていく……。
よく見ると、木で出来た中骨に赤い線が走っていた。
まるで血管が浮き出ているみたいだ。
「おい、次郎丸、お前も働け。もうお二方から角をお預かりしろ」
「はいは~い」
やんちゃな小鬼が、愛嬌よく働き出す。
一センチほどで、赤い浸食は止まった。
太郎丸が、次の角をチャージした。
次郎丸が、てきぱきと返却して回る。
なんだか献血じみてきた。
「え~と、ニーナママ、万変扇って何に使うの?」
真維は、たまらずに尋ねた。
どうやら、自分だけ分かってないみたいだ。
赤鬼には常識なのかもしれない。
でも、こっちは暴露扇だって今日はじめて知ったのである。
すると、なぜか赤鬼の先輩方が、揃って目を伏せた。なんだか微妙な雰囲気だ。
「後でお話しするわね、真維ちゃん」
二奈も、そう言うばかりだ。
赤い小鬼は、二人がかりで扇面を乾かそうと仰いでいる。
扇は下から二センチほど赤く染まっていた。ツートンカラーだ。
「みんな、協力ありがとう。感謝します」
ぺこり
二奈が、きちんと生徒に頭を下げた。




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