ダンジョンズA 〔3〕嘆きの湖 (なげきのみずうみ)

19.糸(いと)(1)

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19.いと(1)

どうして、(おも)(どお)りにならないの?
どうして、みんな邪魔(じゃま)をするの?

みかげは、そう(さけ)んでいた。
だが、(へん)だ。
野獣(やじゅう)のような()(ごえ)しか、()こえてこない。

()かないで。ここにいて、一緒(いっしょ)に。
もう(かえ)りたくない、あんなところになんて。
(おも)(どお)りにならなかった、あんなところになんて。

自分(じぶん)()が、(あし)が。
(ねが)いのままに()びていく。

ばしっ ばしっ ばしっ
その(たび)に、(はば)まれた。
(みずうみ)から()()された、(ふと)(みず)(なわ)で。

なんて(にく)たらしい。
いなくなっちゃえば、いいのに。

そうだ、おかしい。
(いま)までは、「いなくなっちゃえ」って(おも)えば、その(とお)りになっていたのに。

「みかげ! いいかげんにしろ! もう、()こうに(もど)るんだ」
ド・ジョーは、応戦(おうせん)しながら、(あた)りをうかがった。

まずい。
地底(ちてい)()壁面(へきめん)も、湖底(こてい)(いし)も、通常(つうじょう)ならば、くっきり()かれる(はず)なのだ。
(あお)(しろ)半分(はんぶん)半分(はんぶん)に。

はっきりと、(あお)(ほう)(おお)きくなっていた。
(いま)も、どんどん、(しろ)領域(りょういき)()(つぶ)していく。

いや。よく()ろ。
(いろ)境目(さかいめ)は、()きつ(もど)りつしている。
(いま)なら、まだ()()う。

「みかげ! お(まえ)(ほう)が、二度(にど)(かえ)れなくなるぞ!」
だが、ド・ジョーの(こえ)は、みかげに(とど)かない。

(あおい)! ()くぞ、ラストだ」
(よう)が、マダム・チュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()()(さけ)んだ。

マッチョ・スワンズは、湖面(こめん)上空(じょうくう)悠々(ゆうゆう)()んでいた。
みかげの攻撃(こうげき)は、やってこない。
(すべ)て、ド・ジョーに(ふう)じられている。
いける、これなら。

「いつでもいいわよ。(かなら)成功(せいこう)させるわ。あなた(たち)をここから(かえ)してあげる」
(にぎ)ったピンクネズミも、キリっと表情(ひょうじょう)()()める。

(よう)微笑(ほほえ)んだ。
「ありがとう、マダム・チュウ+999」
そして、(こえ)(おお)きくして(つづ)けた。
「マッチョ・スワンズの(みんな)も、ド・ジョーも、どうもありがとう。俺達(おれたち)(かえ)そうと頑張(がんば)ってくれて」

「うん! ほんと! ありがと~!」
(あかつき)も、ぶんぶん片手(かたて)()った。

「どうもありがとうございました!」
(あおい)も、深々(ふかぶか)とお辞儀(じぎ)をする。
スワンに()ったままだが、最敬礼(さいけいれい)だ。

「ありがとう、みんな。黒鳥(こくちょう)さん、ほんと、ありがと」
()(つぶ)った(もも)も、(しぼ)()すように()った。
(かえ)れるのは、(うれ)しい。
だけど、もう()えないんだ。

黒鳥(こくちょう)は、そんな(もも)(やさ)しい()見遣(みや)った。
この()を、(かなら)(かえ)さなければ。

(ほか)のスワン(たち)も、(かた)決意(けつい)していた。
リーダーが、代表(だいひょう)して宣言(せんげん)する。
「おう! お(まえ)らは、俺達(おれたち)(かなら)現実(げんじつ)世界(せかい)(かえ)してやる!」

「って、あれ? マダム・チュウ+999、なんか()いてる?」
(よう)は、驚異(きょうい)裸眼(らがん)視力(しりょく)と、(すぐ)れた(ちゅう)意力(いりょく)()(ぬし)だ。
ゆえに()づけたのだ。
ごくごく(ほそ)い。しかも透明(とうめい)だ。

(いと)だ」
一本(いっぽん)だけではなかった。背中(せなか)に、何本(なんぼん)付着(ふちゃく)している。
(やさ)しく、ネズミの(からだ)()らしてみる。
きらきら
ずっと(さき)まで、(ひか)(いと)()えた。
かなり(なが)い。

「なんだろう? クモの()かなんかに、()()んだのかなあ」
(よう)が、()()ばした。(はら)ってやろうとする。
すると。

「お(にい)ちゃん、だめー!」
いきなり、(もも)怒鳴(どな)った。

カッ
(おどろ)いたことに、(かた)(つむ)っていた()が、見開(みひら)かれている。

「それ()っちゃだめ! よく()からないけど、(かえ)るのに必要(ひつよう)なの! さっき、ティアラにも()いてた!」
はったと、(あに)(にら)みつける。
すごい剣幕(けんまく)だ。

(もも)……」
黒鳥(こくちょう)は、(した)()()いている。
無理(むり)もない。

()かった?!」
母親(ははおや)そっくりの口調(くちょう)で、(もも)(あに)(たた)みかけた。
(たまご)電子(でんし)レンジに()れようとした(とき)と、(おな)反応(はんのう)だ。

「お、おう」
(よう)は、ぎこちなく(うなづ)いた。
(にぎ)られているマダム・チュウ+999も、迫力(はくりょく)()まれて、こくこく(うなず)く。

(もも)は、厳然(げんぜん)(めい)じた。
「そのまま(あおい)にパスして!」
「おう」

ぽいっ
()われるがままだ。(よう)は、(よこ)()んでいる(あおい)に、ピンクネズミを(ほう)()げた。

ぱす
(あおい)()に、最後(さいご)のバトンが着地(ちゃくち)した。
拍子(ひょうし)()けするくらい、あっさりと。

「あらん。成功(せいこう)ね」
マダム・チュウ+999が、()()けた(こえ)()す。

ふわり
そして、(あおい)()から、ピンク(いろ)(からだ)()いた。

(いと)だ」
(あおい)は、()見開(みひら)いた。
はっきり()えた。キラキラした透明(とうめい)(いと)が、マダム・チュウ+999を()()げている。

「アッデュー、(あおい)。もう、ここに()ちゃだめよ~ん」
オネエな口調(くちょう)()(のこ)すと、そのままネズミは()んで()った。

しゅたっ
(まえ)()んでいる(あかつき)(かた)に、着地(ちゃくち)した。
(あかつき)、あなた、(かみ)()くらい()かしなさいな。最低限(さいていげん)()だしなみは、(ひと)(たい)するマナーよん」

いきなり説教(せっきょう)だ。
だが、(あかつき)元気(げんき)よく(うなず)いた。
「うん! わかった!」
いや、でも確実(かくじつ)にやらなそうである。

ひゅうんっ
一瞬(いっしゅん)で、ピンクネズミは、(もも)(まえ)(あらわ)れた。
()っかハンドルの(うえ)()っている。
(もも)、あなた、見所(みどころ)あるわあ。ポテンシャルが(たか)いのね、きっと。将来(しょうらい)(たの)しみねえ」
「えっと、それはどういう意味(いみ)?」
(もも)が、(くび)(かし)げた。
(あに)(しか)()ばした(いきお)いで、()(ひら)いたままだ。
だが、もういない。

(よう)~! アタシのこと、(わす)れないでね~ん」
今度(こんど)は、(よう)(かた)だ。
すりすりと(からだ)をこすりつける。
マーキングでもしているのか。

「ちょっと、マダム・チュウ+999!」
(あおい)(くちびる)(とが)らせると、また()んで()た。
ひゅうんっ
そして、あっという()に、(あかつき)(ところ)()ってしまう。

(もも)(よう)、そしてまた(あおい)へ。
ぐるぐる
マダム・チュウ+999は、スワンからスワンへと(わた)()ぶ。

きらり
背中(せなか)で、(いと)(ひか)った。これが、ピンクネズミを(あやつ)(にん)(ぎょう)よろしく()ばしているのだ。
透明(とうめい)(いと)が、どんどん(しろ)っぽく()えだした。
何本(なんぼん)()()わさったせいだろう。

気付(きづ)いた(あおい)が、(いき)()んだ。
(あかつき)も、(よう)も、(もも)もだ。(こえ)(うしな)って、見渡(みわた)す。
(じゅ)()(つな)ぎだ。自分(じぶん)たちの()るスワンが、(いと)で、ひとつながりにされていく……。

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