ダンジョンズA 〔4〕花束の宴 (はなたばのうたげ)

22.墓場(はかば)(2)

当サイトは広告を利用しています プライバシーポリシー   

22.墓場はかば(2)

(こころ)では動揺(どうよう)しているのに、冷静(れいせい)(こえ)勝手(かって)(くち)から()てきた。
(あおい)返答(へんとう)に、(もも)(よう)がぎょっとする。

「ああ、そうだ」
金色(きんいろ)のドジョウは、沈鬱(ちんうつ)表情(ひょうじょう)(うなず)いた。

「だがな、料理(りょうり)されて()われるわけじゃない。ここで、ただ(くさ)るに()(まか)せ、やがて()からびる。なにもできずに」

現実(げんじつ)世界(せかい)では、意識(いしき)()()てしまった肉体(にくたい)が、やがて(いき)()えて。
(ゆめ)世界(せかい)(とら)われた(こころ)は、そのうち(だれ)からも(わす)れられて、ひとり、ゆっくりとここで(くさ)っていく。
ガルニエ(きゅう)奥深(おくぶか)く、(だれ)()りつかない、(きたな)台所(だいどころ)で。

「だから、ここは墓場(はかば)だ」
(ただよ)っているのは、かつて(ゆめ)世界(せかい)()ばたいていた、胡蝶(こちょう)腐臭(ふしゅう)だ。

三人(さんにん)は、(くさ)ったかぼちゃを()つめた。
こんなに沢山(たくさん)いるんだ……。
(いた)気持(きも)ちが()いてくる。
だが、(はな)()さえた()はそのままだ。
(くさ)いものは(くさ)い。どうしようもない。

ちょろちょろ
マダム・チュウ+999が、(もも)のドレスを()()がってきた。

こいつも、この悪臭(あくしゅう)()にした様子(ようす)はまったくない。
ドレスのポケットから、勝手(かって)にハンカチを()()すと、(もも)()()す。
「ほら、これで(はな)(おお)うといいわよん」

「あ、うん、ありがとう。でも、黒鳥(こくちょう)さん(たち)(ほう)が、ずっと(つら)そう。大丈夫(だいじょうぶ)?」
()()って(はな)(あて)がいつつ、(もも)気遣(きづか)った。

(たし)かに。
巨大(きょだい)なスワンたちは、四羽(よんわ)そろって()(ふる)えていた。
両手(りょうて)、じゃなくて両羽(りょうわ)で、(かお)(おお)っている。
こいつらだけは、(にお)いを(かん)じるんだろうか?

(ゆか)着地(ちゃくち)したマダム・チュウ+999は、やれやれと()いたげに(かた)をすくめた。

ド・ジョーも、(あき)れた(かお)()ける。
「いい加減(かげん)にしろ、お(まえ)ら。ここはもう掃除(そうじ)しないって()めたんだろうが」

「いや、そうなんだが。いくら(かた)づけようが、キリがないのは()()みている」
筋肉(きんにく)二郎(じろう)が、そのポーズで(かた)まったまま、ぼそぼそと弁明(べんめい)する。

「だから()ない! なるべく()()れない!」
(よこ)(おな)格好(かっこう)をしつつ、リーダーが()()った。大声(おおごえ)だ。
なんだか、やけっぱちに()こえる。

どうやら、(にお)いに()えかねたわけではなく、目隠(めかく)しをしていたようだ。

「でも、キノコも()えてきちゃうし」
黒鳥(こくちょう)が、ぽつりと反論(はんろん)した。
こいつだけは、ちょっと(ちが)った。(はね)隙間(すきま)から、ちらちらと部屋(へや)(のぞ)()ている。

キノコ?
三人(みひと)も、()られて(まわ)りを見渡(みわた)した。

ぽうっ
(なに)か、(あお)緑色(みどりいろ)(ひか)った。これは……
()いなり(だけ)だ!」
(あおい)(よう)が、同時(どうじ)(さけ)んだ。

ぽうっ…… ぽうっ……

あっちにも、こっちにも。
かぼちゃの(うえ)で、しょぼい(ひかり)()いたり()えたりしている。

イルミネーションを(かざ)りつけたみたいだ
(あおい)は、そう(おも)ってから、即座(そくざ)否定(ひてい)した。
ちがう。(かざ)られているんじゃない。

()えてるのね……」
(もも)が、正解(せいかい)(くち)にした。
マッスル左衛門(ざえもん)は、そう()ったのだ。

いくつも、いくつも。
肌色(はだいろ)(ちい)さなキノコが、茶色(ちゃいろ)(くさ)ったかぼちゃの()()から、ぽこぽこと()えている。
囚人(めしゅうど)のなれの()てを、格好(かっこう)(とこ)として。

ひどすぎる。
三人(さんにん)とも言葉(ことば)(うしな)っていた。
これが、囚人(めしゅうど)辿(たど)末路(まつろ)なのか。

この場所(ばしょ)忌避(きひ)される理由(りゆう)が、十分(じゅうぶん)すぎるほど()かった。
自分(じぶん)(たち)だって、もう二度(ふたど)()たくはない。
キノコ()りには絶好(ぜっこう)のスポットかもしれない。
でも、()いなり(きのこ)しか()れない狩場(かりば)だ。

だが、この(なか)でダントツに(いや)がっているのは、筋肉(きんにく)三郎(さぶろう)だった。
(はね)(かた)目隠(めかく)ししたまま、(うった)える。
「やっぱり、ここも綺麗(きれい)にしたほうがよくないか? (きたな)いと、ソネムネ・タムが()()くだろ?」

筋肉(きんにく)三郎(さぶろう)は、ぬとぬとした気持(きも)(わる)(やつ)らが、この()一番(いちばん)(だい)(きら)いなのだ。
仲間内(なかまうち)でも一際(ひときわ)でかい図体(ずうたい)で、ぶるぶる(ふる)えている。

すぅっ……
かすかな気配(けはい)に、(よう)がいち(はや)気付(きづ)いて、指差(ゆびさ)した。
「ああ、本当(ほんとう)だ、あそこ」
影法師(かげぼうし)が、薄暗(うすぐら)部屋(へや)(すみ)で、ひらひらしている。
()三人(さんにん)いるようだ。とても()かりにくい。

三郎(さぶろう)は、ひいっと喉元(のどもと)悲鳴(ひめい)()げた。
さらに(ちぢ)こまる。(もと)がでかいから、あまり(ちい)さくなった(かん)じはない。

「ったく、しょうがねえなあ」
ぽこん
ド・ジョーが、()っている水球(すいきゅう)から、もう(ひと)(みず)(たま)()()した。
()かぶ電球(でんきゅう)第二号(だいにごう)だ。

ついーっ
部屋(へや)(すみ)っこに()んでいく。

ぶわわーっ
そこで、(おお)きく(ふく)()がった。
部屋(へや)(すみ)(あか)るく()らし()す。

効果(こうか)抜群(ばつぐん)だった。
しゅううぅ……
ソネムネ・タム(たち)は、かき()されるようにいなくなった。殺虫(さっちゅう)スプレーと同等(どうとう)効果(こうか)だ。

ド・ジョーは、大型(おおがた)電球(でんきゅう)を、そのまま一周(いっしゅう)させた。
これだけの(はず)が、ないからだ。
(あん)(じょう)(ほか)にもいたソネムネ・タムが、あぶり()されては、()えていく。

(あか)るい。さっきまでとは雲泥(うんでい)()だ。
(きたな)台所(だいどころ)様子(ようす)が、まざまざと()()れる。
(やま)ほど()まれた、かぼちゃの死骸(しがい)たちもだ。

今度(こんど)は、(もも)顔色(かおいろ)()えた。
ぽとり
(はな)()さえていたハンカチが、(おも)わず()から落下(らっか)する。

「っとお!」
はっし!
足元(あしもと)にいたマダム・チュウ+999が、(ゆか)()寸前(すんぜん)にキャッチした。電光(でんこう)石火(せっか)早業(はやわざ)だ。

(かお)がある!」
(もも)は、(あに)のタキシードを(つか)んで、()きそうな(こえ)(うった)えた。

(よう)は、(だま)って(うなず)いた。とっくに気付(きづ)いている。

(あおい)も、(あお)ざめた(かお)部屋(へや)見回(みまわ)した。

(まる)いかぼちゃが、(そろ)ってこっちを()いていた。

しわしわの果皮(かひ)に、みんな(おな)じように、でこぼこが()いている。
(よこ)(ふた)(なら)んだでっぱりが、まるで(ひと)()みたいになっていた。
(はな)も、(くち)もある。
凹凸(おうとつ)()()わされて、表情(ひょうじょう)形作(かたちづく)っていた。
(うら)めしそうな(かお)だ。

ハロウィンのかぼちゃよりも、ホラー()(まさ)る。
生首(なまくび)をずらりと(なら)べたかのような(なが)めだ。

(あおい)(よう)も、もはや(はな)(おお)うことを(わす)れて、見入(みい)っていた。

(もも)も、そうだ。
(ひろ)ったハンカチを()()してくれているピンクネズミにも、()()かない。

悪臭(あくしゅう)も、()にならなくなっていた。
そもそも、全員(ぜんいん)、いいかげん(はな)がばかになっていたせいもある。

さっきから()きたかったことを、(あおい)(くち)()した。
「みかげも、こうなるの?」

住人(じゅうにん)たちは、(だれ)(こた)えずに、(つら)そうに(うつむ)いた。
それが(こた)えだった。

どうしよう。どうすればいい?
このままだと、(あかつき)は、みかげの身代(みが)わりになって、電球(でんきゅう)になってしまう……かもしれない。
みかげはみかげで、かぼちゃの仲間(なかま)()りだ。

(つぎ)が、最後(さいご)のチャンスなんだ。
(かんが)えるんだ。うまくいく作戦(さくせん)を。

『お()らせいたします』
びくっ
いきなり、胸元(むなもと)から(こえ)がした。案内板(あんないばん)だ。

加羅(から)みかげのエントリーが(はい)りました。これが最後(さいご)挑戦(ちょうせん)となります』

()た。

演目(えんもく)は、(ねむ)りの(もり)美女(びじょ)(だい)(まく)より、オーロラ(ひめ)とデジレ王子(おうじ)のグラン・パ・ド・ドゥです』

間仕切り線

んでくださって、有難ありがとうございます!
いかがだったでしょうか。
以下のサイトあてに感想かんそう評価ひょうか・スキなどをおいただけましたら、とてもうれしいです。

ロゴ画像がぞうからかくサイトの著者ちょしゃページへと移動いどうします

ランキングサイトにも参加さんかしています。
クリックすると応援おうえんになります。どうぞよろしくおねがいします↓

小説全しょうせつすべての目次もくじページへ

免責事項・著作権について リンクについて

(つづ)きは、また(らい)(しゅう)