カイコン

29.業火

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29.業火ごうか

しばらく追っていくと、コインの群れが下降し始めた。
先頭の方から、ずぶずぶと川面に突っ込んでいく。
ほどなく、最後尾まで水面下に沈んだ。

「気をつけて。いったん上昇して距離を取りましょう。おそらく、荒魂(あらみたま)が変化します」
「わかった」
シルキングの言う通り、だ。
千里(せんり)は飛行高度を上げた。
川の真上を、下流へと飛び続ける。

すると。
ざああっと、下流から風が川面を渡って来た。

チリチリチリ……
ガラスの風鈴が、一斉に騒いでいるようだ。
その音と同時に、一筋。白く粟立った波が、川の中央を遡ってくる。

収まったのを見計らって、フォースが言った。

「変化し終わったようです。確認してみましょう。くれぐれも用心して下さいね」
「あ~ハイハイ」
過保護な服に、つい軽く返事してしまう千里である。

だが、その余裕も、水面下を覗き込んだ途端に、吹っ飛んだ。

比較にならないほど、太くなっている。
この狭い川幅いっぱい、みちみちだ

そして、水面の下を泳いでいく「物」は、「生き物」に変わっていた。
長い胴体。
ばらばらに飛んでいたコインが、びっしりと整列して表面に張り付いている。

(うろこ)だ」
「ええ。尻尾も出来てますね」
この形状は……。
嫌な予感しかしない。

「とりあえず、頭は向こう側なのが確定しました。行きましょう」
「ああ!」
早く和尚達に加勢しなければ。

こんなにスピードを出して飛んだことはなかった。
最新機の性能を限界まで出し切ってやる。
勢い込んでいた千里だが、すんでのところで慌てて急停止した。

川が、二股に分かれている。

「え?! これどっち?」
「荒魂の体も、二つに分かれてますね」
本当だ。
千里は、水面を覗き込んだ。

そのとき。
「下から来ます! 飛んで!」

ざばあっ!!!

服から警告が飛んだ。と、同時に、水面から「それ」の頭が躍り出た。

千里は、瞬時に飛び退っていた。
そのまま、躱しつつ急スピードで上昇する。
反射神経が極限まで試された瞬間であった。

気付かなくても、無理は無かった。
全く音を感じなかったのだ。
しかも速い。

荒魂は、なめらかな動きで千里を追いかけた後に、いったん止まった。
鎌首をもたげ、こちらを見据えている。

「やっぱり蛇か」
賢い奴だ。今まで、じっと水面に潜んで、様子を窺っていたのだろう。

静止していたのは、ひと時だけだった。
「また来ます!」
フォースが、叫ぶなり、武器を生成した。
一瞬で、軍服スーツから(つるぎ)が生えてくる。

がっ
千里が、すぐに受け取って構える。
シルキング四号機の最新武器だ。
すとん、と真っすぐな両刃。
刀身から柄までが、一本で出来ている。
まるで、真っ白な玉石から削り出したかのような姿だ。

実用的な刀剣、というよりは、神社に祀られている宝剣のフォルムに近い。
だが、シルキング武器研究班の英知を集結した、最高傑作なのである。

「うおおおおっ!」
気合を込めて、千里が剣を振り下ろした。
蛇の胴体に、切れ目が入る。

キエエエエッ……

大蛇が悶える。
らんらんと燃える赤い眼が、小賢しい刺客を睨みつけた。
どうやら、やる気スイッチを押してしまったようだ。

(みずち)は、さらに加速した。
巨体をものともしないスピードだ。
飛び回る千里を、執拗に追いかけて来る。

くねくね
長い胴が、しなやかな鞭となって、幾度も千里の体に巻き付こうとした。
「こいつ、オレを絞め殺す気だ!」

「距離を取って攻撃しましょう。クサナギを(ほこ)に変えます」
その途端、ぐいんと剣が伸びた。
長い柄に、鋭い鉾身が備わる。
真っ白な外見は、そのままだ。

これこそが、シルキング最強武器、クサナギ。
状況に応じて、数種類の武器に変わることができるのである。
もちろん、どれも攻撃力はお墨付きだ。

千里は、くねくねする太い胴から逃げつつ、幾度も蛟を刺突した。
優秀な武器に加え、非常に優れた戦闘能力だ。
しかも、人形のごとく整った容貌。
軍神もかくや、という絵面である。

だが、相手が悪かった。

はっとした時には、囲まれていた。
どっちを向いても、どす黒い鱗だ。
しまった!

千里(せんり)!」
外側から、声が聞こえた。
絶対に聞き間違えようがない声だ。

キンッ!
音と共に、視界が開けた。
腕が伸びて来て、ぐいっと引っ張り出される。

剣の斬撃に大蛇が怯んだ隙に、からくも助け出されたのである。

目の前に、少年が浮かんでいる。
自分と寸分たがわぬ姿の。

千里(せんり)は、弟の名を呼んだ。
万里(ばんり)……」

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