カイコン(総フリガナ版)

34.悔恨(総フリガナ版)

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34.悔恨かいこん

「「あ~! 二人(ふたり)とも嵌(は)めちゃった!」」
双子(ふたご)が、二人(ふたり)で叫(さけ)んだ。
完璧(かんぺき)なユニゾンである。

「ごめん。つい、やっちゃった」
「あ、いや、オレも」

「だめか?」
和尚(おしょう)が、慌(あわ)ててやって来(く)る。
シルキング縄(なわ)を、ぞろぞろと裃(かみしも)の腰(こし)にくっ付(つ)けたままだ。

ちさとも、飛(と)んで来(き)た。
「いいえ……どうも合(あ)ってるみたい。蛟(みずち)が止(と)まったもの」

確(たし)かに。大蛇(だいじゃ)は、浮(う)かんだまま動(うご)きを止(と)めていた。
だが、エネルギーチップに変(か)わる様子(ようす)はない。

「見(み)て。蛟(みずち)の目(め)、二人(ふたり)のカイコンが、ちょうど互(たが)い違(ちが)いに嵌(は)まってる。勾玉(まがたま)巴(ともえ)、だったわよね」

ちさとの言(い)う通(とお)りだった。
こっちの目(め)も、もう一(ひと)つの頭(あたま)についていた目(め)と同(おな)じだ。
まん丸(まる)の赤(あか)に、窪(くぼ)んだ線(せん)が走(はし)っている。

今回(こんかい)は、その線(せん)に沿(そ)って、ぴったりと二(ふた)つのカイコンが嵌(は)まっていた。
ちょうど、円(えん)になる形(かたち)で。

「……そうか。これが正解(せいかい)なんだ」
和尚(おしょう)が、一人(ひとり)呟(つぶや)いた。

そして、横(よこ)を向(む)いた。

先(さき)にノックダウンされた頭(あたま)が、こんがらがったヒモの先(さき)に飛(と)び出(で)ていた。
もう、涙(なみだ)は出(で)ていない。
同(おな)じ模様(もよう)の赤(あか)い目(め)は、静(しず)かに見開(みひら)いている。
まるで、覚悟(かくご)を決(き)めた野(の)兎(うさぎ)のように。

そうか。
その目(め)を見(み)た途端(とたん)、和尚(おしょう)には分(わ)かった。

こいつは、解(と)き放(はな)たれたいと願(ねが)っている。
ずっと、ずうっと、きっかけを待(ま)ち続(つづ)けていたんだ。

「ちさと、さっきの鏡(かがみ)、無事(ぶじ)か?」
静(しず)かに尋(たず)ねる和尚(おしょう)に、ちさとが寄(よ)って来(き)た。

無言(むごん)で、背負(せお)った風呂敷(ふろしき)から、勾玉形(まがたまがた)の鏡(かがみ)を取(と)り出(だ)す。
あれだけの荒行(あらぎょう)をこなしたというのに、ヒビ一(ひと)つ入(はい)っていない。
やはり、何(なに)か不思議(ふしぎ)な力(ちから)を秘(ひ)めているようだ。

「よかった。そいつを、こっちの目(め)に嵌(は)めてみてくれ」

ちさとは、固(かた)い表情(ひょうじょう)で頷(うなず)いた。
何(なに)が起(お)こるか、想像(そうぞう)もつかない。
でも……和尚(おしょう)を信(しん)じよう。

すっ
翳(かざ)した途端(とたん)、独(ひと)りでに勾玉(まがたま)鏡(かがみ)が飛(と)んでいく。
そして。
ぴたりと、目(め)の半分(はんぶん)に嵌(は)まった。

しゅる しゅる しゅるっ
和尚(おしょう)が、シルキング縄(なわ)を外(はず)し出(だ)した。
大量(たいりょう)の白(しろ)い縄(なわ)が、すごい勢(いきお)いで裃(かみしも)に戻(もど)って行(い)く。よくもこんなに出(で)ていたものだ。

「……自由(じゆう)にしちゃって大丈夫(だいじょうぶ)なの?」
「ああ、たぶんな」
拘束(こうそく)され、絡(から)まっていた大蛇(だいじゃ)の巨体(きょたい)が、ゆるゆると解(と)けていく。

やがて、真(ま)っすぐに直(なお)った双頭(そうとう)の大蛇(だいじゃ)は、静(しず)かに川(かわ)の上空(じょうくう)に浮(う)かんだ。
片方(かたほう)の頭(あたま)だけが、ゆっくりと鎌首(かまくび)をもたげる。
鏡(かがみ)を目(め)に嵌(は)めた奴(やつ)だ。

うろうろ
蛟(みずち)は、顔(かお)を下(した)に向(む)けて、しきりと彷徨(さまよ)った。

「自分(じぶん)の姿(すがた)を確(たし)かめてるのかな」
千里(せんり)が、ぽつりと言(い)った。
「確(たし)かに、そう見(み)える」
万里(ばんり)が、相槌(あいづち)を打(う)つ。
蛇(へび)なのに、どこか人間(にんげん)めいた仕草(しぐさ)だ。

すると。ずっと無表情(むひょうじょう)だった大蛇(だいじゃ)の顔(かお)に、はっきりと表情(ひょうじょう)が浮(う)かんだ。

恥(は)ずかしや
このような姿(すがた)に変(か)わり果(は)てた
なんと あさましい
うとましいことよ……

ちさと、千里(せんり)、万里(ばんり)の三人(さんにん)が、揃(そろ)って息(いき)を呑(の)む。
ネコ耳(みみ)から言葉(ことば)が聞(き)こえてくる!

すっ
和尚(おしょう)が、一人(ひとり)、飛(と)び立(た)った。
嘆(なげ)く蛟(みずち)の顔(かお)に、丸腰(まるごし)で近(ちか)づく。

「そうだよな……、辛(つら)いよな。どうにかならなかったのかな」
和尚(おしょう)は、自分(じぶん)のネコ耳(みみ)に手(て)をやった。
金色(きんいろ)のカイコンが独(ひと)りでに外(はず)れて、右手(みぎて)に収(おさ)まる。
それから、迷(まよ)わず荒魂(あらみたま)の目(め)に翳(かざ)した。

ようやく分(わ)かった。
だから、「この言葉(ことば)」なんだ。
心(こころ)を込(こ)めて、唱(とな)える。

「悔恨(かいこん)」

どうにかならなかったのか。
深(ふか)く悔(く)やむ心(こころ)を捧(ささ)げて、「巡(めぐ)る円(えん)」の始(はじ)まりへと誘(いざな)う……。

ぴしっ
音(おと)を立(た)てて、和尚(おしょう)の勾玉(まがたま)が、空(あ)いたスペースにぴったりと嵌(は)まった。
銀(ぎん)と金(きん)、ツートンカラーの勾玉(まがたま)巴(ともえ)の出来(でき)上(あ)がりだ。

ずずずずず……
双頭(そうとう)の蛇(へび)が、動(うご)き始(はじ)めた。
二(ふた)つに裂(さ)けた胴(どう)が、くっ付(つ)いていく。

最後(さいご)に、顔(かお)と顔(かお)が合(あ)わさった。
目(め)と目(め)も、磁石(じしゃく)のように惹(ひ)きつけ合(あ)う

千里(せんり)と万里(ばんり)の、白金(はっきん)の勾玉(まがたま)巴(ともえ)。
ちさとと和尚(おしょう)の、銀(ぎん)と金(きん)の勾玉(まがたま)巴(ともえ)。
四(よっ)つが重(かさ)なって、一(ひと)つの円(えん)となる……。

「う、うわ……っ」
千里(せんり)が、急(きゅう)に焦(あせ)った声(こえ)をあげた。
いきなり、握(にぎ)った剣(けん)が勝手(かって)に動(うご)いたのだ。
体(からだ)が引(ひ)きずられていく。とんだ暴走(ぼうそう)神剣(しんけん)だ。

ヤマツミは、何(なに)かを成(な)そうとしているんだ。
悟(さと)った千里(せんり)は、すぐに体勢(たいせい)を整(ととの)えると、しっかりと神剣(しんけん)を握(にぎ)り直(なお)した。

ようやく止(と)まったと思(おも)いきや。
蛟(みずち)の、ど真(ま)ん前(まえ)である。

覚悟(かくご)を決(き)める暇(いとま)もない。
ヤマツミから、透明(とうめい)な光(ひかり)が迸(ほとばし)った。
また自動(じどう)運転(うんてん)状態(じょうたい)だ。
神剣(しんけん)が、大蛇(だいじゃ)の長(なが)い胴体(どうたい)を、延々(えんえん)と斬(き)り裂(さ)いていく!

「うおおおおおっ……!」
知(し)らず、千里(せんり)の喉(のど)から気合(きあい)が迸(ほとばし)った。

ざんっ!
尾(お)まで到(とう)達(たつ)した。その瞬間(しゅんかん)。

ぱああぁ……っ!

どす黒い鱗(うろこ)が、金色(きんいろ)に染(そ)まった。
尻尾(しっぽ)から頭(あたま)に向(む)かって、黄金(おうごん)の刷毛(はけ)で塗(ぬ)り上(あ)げたかのように。

突如(とつじょ)。
爆風(ばくふう)が川面(かわも)を揺(ゆ)るがした。
大蛇(だいじゃ)の体(からだ)が崩(ほう)壊(かい)したのである。

キラキラ光(ひか)る流(なが)れ星(ぼし)が、ひゅうんと落下(らっか)して来(く)る。
4つの勾玉(まがたま)だ。
ネコ耳(みみ)達(たち)の耳(みみ)へ、それぞれ戻(もど)って行(い)く。

そして、金色(きんいろ)に変化(へんか)した鱗(うろこ)が、ばらばらと降(ふ)り注(そそ)いだ。

そう。膨大(ぼうだい)な数(かず)の、エネルギーチップとなって。

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