カイコン(総フリガナ版)

35.万里(総フリガナ版)

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35.万里ばんり

おお~……
商店街(しょうてんがい)の街頭(がいとう)テレビを見(み)ていた人々(ひとびと)から、どよめきが上(あ)がった。
下手(へた)な怪獣(かいじゅう)映画(えいが)よりも見(み)応(ごた)えがある。
置(お)いてあるテレビは売(う)り物(もの)の最新(さいしん)機種(きしゅ)だから、白黒(しろくろ)ではなくカラーだ。

降(ふ)り注(そそ)ぐ、黄金(おうごん)のコイン。
そして、黒(くろ)ネコ耳(みみ)の美女(びじょ)をクローズアップ。
その画面(がめん)が、突如(とつじょ)、真(ま)っ黒(くろ)い鳥(とり)の大群(たいぐん)に埋(う)め尽(つ)くされた。

「な、なんだ、ありゃあ?」
疑問(ぎもん)と不満(ふまん)が、いくつも湧(わ)き上(あ)がった。
主(おも)に野郎(やろう)どもからである。

「ヤタガラスです。彼(かれ)らがエネルギーチップを回収(かいしゅう)する役割(やくわり)を担(にな)っているんですよ」
人々(ひとびと)の中(なか)から、説明(せつめい)する声(こえ)が上(あ)がった。

ほおお~……

皆(みな)、感心(かんしん)して、その男(おとこ)を見遣(みや)った。
医者(いしゃ)か何(なに)かなのだろうか。白衣(はくい)を着(き)ている。
見(み)るからに頭(あたま)が良(よ)さそうだが、それ以上(いじょう)に変人(へんじん)っぽい。

「足(あし)が三本(さんぼん)あるじゃないか。ほんとにカラスなのかい?」
当然(とうぜん)の疑問(ぎもん)だ。

「正確(せいかく)には、鳥類(ちょうるい)ではありません。日本(にほん)書紀(しょき)の神代(かみよ)から存在(そんざい)が確認(かくにん)されている一族(いちぞく)です。神(かみ)の御使(みつか)いとも言(い)われているんですよ」

ほおおお~……
再(ふたた)び感嘆(かんたん)の声(こえ)が上(あ)がる。
気(き)を良(よ)くした白衣男(はくいおとこ)が、更に蘊蓄(うんちく)を傾(かたむ)け出(だ)す。
だが、いくつもの大声(おおごえ)に遮(さえぎ)られた。

「おい、戻(もど)って来(き)たぞ!」
空(そら)の彼方(かなた)に、飛(と)んで来(く)る人間(にんげん)の姿(すがた)があった。
ネコ耳(みみ)の連中(れんちゅう)だ。
四人(よにん)で、一(ひと)つの布(ぬの)包(づつ)みをぶら下(さ)げている。
かなり重(おも)たそうな様子(ようす)だ。

よほど大切(たいせつ)な物(もの)らしい。丁重(ていちょう)に、彼(かれ)らは布(ぬの)包(づつ)みを地面(じめん)に下(お)ろした。

テレビ前(まえ)の人垣(ひとがき)が崩(くず)れる。ネコ耳(みみ)たちが降(お)り立(た)った場所(ばしょ)へ、群衆(ぐんしゅう)が寄(よ)り集(あつ)まった。
置(お)き去(ざ)りにされた白衣男(はくいおとこ)は、それでもまだ喋(しゃべ)っている。

揃(そろ)って立(た)つ四人(よにん)に、なんとなく拍手(はくしゅ)が沸(わ)き起(お)こった。

しゅるるるるっ

一瞬(いっしゅん)で、真(ま)っ白(しろ)な布(ぬの)が和尚(おしょう)の裃(かみしも)に回収(かいしゅう)された。
驚(おどろ)きの声(こえ)が上(あ)がる。
手品(てじな)さながらに現(あらわ)れ出(いで)た中身(なかみ)は、あのとき吹(ふ)っ飛(と)ばされたお地蔵(じぞう)様(さま)だ。

「いよっと」
和尚(おしょう)が、お地蔵(じぞう)様(さま)を持(も)ち上(あ)げた。
えっちらおっちら、元(もと)の場所(ばしょ)へと運(はこ)ぶ。

「あ、オレも手伝(てつだ)う」
「いや、千里(せんり)は休(やす)んでて。オレがやるよ」
見(み)るからにバテバテな兄(あに)の代(か)わりに、万里(ばんり)が加勢(かせい)した。
石(いし)というのは、けっこう重(おも)い。

「あれ?」
置(お)けたはいいが、何(なに)か変(へん)だ。お顔(かお)が無(な)い。
お背中(せなか)が前(まえ)を向(む)いてしまっている。

「逆(ぎゃく)、逆(ぎゃく)!」
ちさとだけでない。群衆(ぐんしゅう)からも指摘(してき)が飛(と)んだ。
見(み)ちゃいられない。人垣(ひとがき)から、おじちゃん達(たち)も飛(と)び出(だ)した。
みんなで向(む)きを直(なお)す。

ようやく元通(もとどお)りになったお地蔵(じぞう)様(さま)に、その場(ば)にいた者(もの)達(たち)は、しばし合掌(がっしょう)した。

和尚(おしょう)も手(て)を合(あ)わせていたが、横(よこ)で拝(おが)んでいる女性(じょせい)に気付(きづ)いて、破顔(はがん)した。
「お~、おばちゃん、無事(ぶじ)だったか!」

コインの奔流(ほんりゅう)で倒(たお)れていた白(しろ)い割烹(かっぽう)着(ぎ)に、見覚(みおぼ)えがあったのだ。

「ああ、有難(ありがと)うねえ。大活躍(だいかつやく)だったじゃないか、ネコ耳(みみ)さんたち」
やっぱり。お地蔵(じぞう)様(さま)のお世話(せわ)をしていた当番(とうばん)さんだ。

「鳥海(とりうみ)ちさとさん、御無事(ごぶじ)でなによりです」
突然(とつぜん)、フルネームで呼(よ)びかけられて、ちさとが振(ふ)り返(かえ)った。

狛(こま)ケンさんだ。なんで、ここにいるのだろう。
驚(おどろ)く美女(びじょ)に、穏(おだ)やかな役人(やくにん)スマイルが返(かえ)って来(く)る。

「テレビを見(み)て、こちらにいらっしゃると分(わ)かったものですから。宿舎(しゅくしゃ)に、あなた宛(あ)ての郵便物(ゆうびんぶつ)が大量(たいりょう)に届(とど)いてまして」

手渡(てわた)された紙袋(かみぶくろ)を覗(のぞ)き込(こ)むと、封筒(ふうとう)と官製(かんせい)ハガキがごっそり入(はい)っていた。
差出人(さしだしにん)は、見(み)なくても分(わ)かる。

「ちさと!」
人垣(ひとがき)を押(お)しのけて、なんと実物(じつぶつ)が出(で)て来(き)た。
「ミイ?!」
またもや、テレビを見(み)て、だろう。

いきなり、大音声(だいおんじょう)が響(ひび)き渡(わた)った。
「ちさとの馬鹿(ばか)ああああっ!!!!」
辺(あた)りが、一瞬(いっしゅん)、静(しず)まり返(かえ)る。

「な、なによ。自分(じぶん)ひとりで決(き)めないでよ。ネコ耳(みみ)になったからって、関係(かんけい)ないよ。あたしなんてミイよ。よっぽど猫(ねこ)っぽいじゃない」
ぼろぼろ泣(な)き出(だ)した。
もはや、言(い)ってることが支離滅裂(しりめつれつ)だ。

「それにあたしは、ちさとの親友(しんゆう)だもん!」

ほんわりと、その場(ば)の空気(くうき)が和(なご)んだ。
戸惑(とまど)った顔(かお)をしていた美女(びじょ)が、その台詞(せりふ)を聞(き)いた途端(とたん)、晴(は)れ晴(ば)れと微笑(ほほえ)んだからだ。

「うん」
ちさとが、しっかりと頷(うなず)いてみせる。
どうやら大団円(だいだんえん)の様子(ようす)だ。

横(よこ)でハラハラしていた万里(ばんり)は、ほっと息(いき)を着(つ)いた。
何(なん)だか分(わ)からないけど、仲直(なかなお)りしたみたいだ。
安心(あんしん)したのも束(つか)の間(ま)。不安(ふあん)を掻(か)き立(た)てる人物(じんぶつ)が、満面(まんめん)の笑(え)みを浮(う)かべて、目(め)の前(まえ)に現(あらわ)れた。

「やあ、万里(ばんり)君(くん)! 素晴(すば)らしかったよ。シルキング4号機(ごうき)の類(たぐい)まれなる機能(きのう)を、余(あま)すことなく使(つか)ってくれたようだね」

「……わざわざ見物(けんぶつ)に来(き)てたんですか」
シルキング開発(かいはつ)室長(しつちょう)、宇賀神(うがじん)氏(し)だ。
この上(うえ)なくご満悦(まんえつ)だ。べらべら万里(ばんり)に喋(しゃべ)りかけてくる。

狛(こま)ケンさんが、さりげなく割(わ)り込(こ)んだ。
安定(あんてい)の抑(おさ)え役(やく)である。
「はい、万里(ばんり)君(くん)、お母様(かあさま)からのお手紙(てがみ)です。お電話(でんわ)も、何回(なんかい)か頂(いただ)いていますよ。やはり一人(ひとり)きりの息子(むすこ)さんだから、御心配(ごしんぱい)なのでしょう。たまには御実家(ごじっか)に帰(かえ)っておあげなさいね」

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