ダンジョンズA 〔2〕双子の宮殿 (ふたごのきゅうでん)

6.シャッフル(1)

当サイトは広告を利用しています プライバシーポリシー   

6.シャッフル(1)

シャーッ
(みず)のカーテンが、()(すり)(はし)っこから()かれて()た。

(はや)い。
金色(きんいろ)魚体(ぎょたい)が、手摺(てすり)(かわ)一気(いっき)()()けたのだ。
そのはしから、(みず)()()っていく。

今回(こんかい)は、薄手(うすで)のレース()だ。さっきのオートシャッフルほどの(ほん)(りゅう)ではない。
キラキラと(かがや)くカーテンは、(はし)っこまで()められた。
(そと)廊下(ろうか)が、(ふたた)び、(みず)(かべ)(ふさ)がれる。

ぐらり、と()れた。
さっきよりも(つよ)い。

「うわ……」
あらかじめド・ジョーに警告(けいこく)されていたのだが、ひとたまりもない。
(あかつき)(あおい)が、(おも)わず、よろける。

マダム・チュウ(プラス)()(リー)(ナイン)も、(あかつき)(かた)から、つるりと(ころ)()ちた。二回目(にかいめ)だ。
「きゃあ~」
悲鳴(ひめい)が、さらに女子力(じょしりょく)()している。

「おっと」
(よう)が、(あわ)てて両手(りょうて)でキャッチした。
(たい)(かん)(きた)(ほう)(ちが)うので、一人(ひとり)だけ、びくともしていない。
(たくま)しい(うえ)に、無自覚(むじかく)なジェントルマンだ。
マダム・チュウ+999を、(ゆか)(やさ)しく()ろしてやる。
ネズミの()は、ハート(がた)になっていた。

(こわ)いものを()た。
よろけつつ、(あおい)は、(あお)くなった。
(おそ)ろしい(おとこ)だ。オネエなネズミすら、()らし()んでしまうとは。

(みず)のレースカーテンが、(はし)っこから()けるように()えていった。
手摺(てすり)から()()した水柱(みずばしら)が、順繰(じゅんぐ)りに(おさ)まったのだ。

「おう、大丈夫(だいじょうぶ)か?」
ド・ジョーが、手摺(てすり)(うえ)から(こえ)()けてきた。
また、いつの()にか(もど)って()ている。
(あお)ざめた(あおい)()()が、()づかわし()だ。

「ああ、うん、べつに大丈夫(だいじょうぶ)
()()()いたのは、(おも)にネズミのせいだ。
「ねえ、(いま)のがシャッフル?」
(なに)もかも()にしていない(あかつき)が、元気(げんき)(たず)ねた。

「ああ、そうだ」
ド・ジョーが、ひょいとヒゲを(うごめ)かせる。
(ちゅう)()くお(めん)()から、また光線(こうせん)(はな)たれた。
手摺(てすり)水製(みずせい)スクリーンも、復活(ふっかつ)している。

100(かい)()ての(とう)が、(ふたた)(うつ)()された。
地下(ちか)(かい)、11(かい)、21(かい)、31(かい)……
蛍光(けいこう)マーカーが、目印(めじるし)のように()られていく。
(とう)間隔(かんかく)の、だんだら模様(もよう)になった。さっきと(おな)じだ。

すると、今度(こんど)は、マーカーの()いた(かい)(した)が、その(いろ)にうっすらと()められていった。
一番上(いちばんうえ)地下(ちか)(かい)は、(みどり)だ。
その(した)地下(ちか)10(かい)までが、(うす)(みどり)になる。
地下(ちか)11(かい)は、(あか)
その(した)は、地下(ちか)20(かい)まで(うす)(あか)()まる。

()()は、どんどん(すす)んだ。
やがて、ダンジョンは、(いろ)とりどりのブロックを10()()()げた(がた)になった。
出来(でき)()がりだ。

ド・ジョーが、ぴょいと(ひげ)(うご)かして()う。
(おれ)のシャッフルは、()きな階層(かいそう)を、(えら)んだ場所(ばしょ)移動(いどう)することができるのさ」

カーン
だるま()としだ。
()()かれる。今度(こんど)は、(みぎ)に4()(ひだり)に4()だ。

ただし、2つだけ、胴体(どうたい)(のこ)っていた。
「ただし、(うえ)(した)無理(むり)やり(ほう)()げるんだからな、足場(あしば)必要(ひつよう)になる。だから、1つのブロックを固定(こてい)するのさ」

(むらさき)のブロックが、ひょいと一番上(いちばんうえ)移動(いどう)した。
(あか)のブロックは、場所(ばしょ)(うご)かない。どうやら、これが足場(あしば)のようだ。
場外(じょうがい)(はじ)かれていたブロックは、ぐちゃぐちゃに()()わされてから、()いた部分(ぶぶん)(もど)っていく。

「これで、お(しま)いさ」
スクリーンの水流(すいりゅう)が、手摺(てすり)(もど)った。

ド・ジョーは、しみじみと(あおい)()つめて()った。
「しかし……お(まえ)さんたち、本当(ほんとう)に、またこっちに()るとはなあ。ご苦労(くろう)さんなことだぜ」

いや。大変(たいへん)(おも)いをするのは、ほとんど(あおい)だけだ。
そうと()かっている(かお)つきだった。

()ようと(おも)ったわけじゃない。なんだか()からないけど、()ちゃったんだよ」
(あおい)は、がっくりと(かた)()とした。
「どのみち、チュチュの材料(ざいりょう)(あつ)めなきゃ、(かえ)るどころじゃなさそうだし」

「ねえ、もう(さが)しに()っていいの?」
やる()満々(まんまん)で、(あかつき)(たず)ねる。
(いま)にも(はし)()しそうだ。

手摺(てすり)(うえ)から、ド・ジョーは苦笑(くしょう)寄越(よこ)した。
相変(あいか)わらず対照的(たいしょうてき)二人(ふたり)だ。

「まあ()て。説明(せつめい)(のこ)ってる。これはな、貴婦人(きふじん)承認(しょうにん)()けた〔調達(ちょうたつ)〕なんだ」
「ちょうたつって、なんだ?」
(よう)(くび)(ひね)る。
三人(さんにん)(なか)(さい)年長(ねんちょう)だが、残念(ざんねん)ながら国語力(こくごりょく)最下(さいか)()である。

必要(ひつよう)品物(しなもの)を、()(そろ)えて用意(ようい)すること』
(ちゅう)()かぶお(めん)が、すかさず質問(しつもん)(こた)える。
便利(べんり)だ。

「だから、〔()()し〕から(はじ)めなきゃならねえんだ。さっきシャッフルして、裁縫(さいほう)部屋(べや)のあるこの(かい)を、地下(ちか)(かい)(うご)かした。それが、スタートの合図(あいず)になる」
ド・ジョーが、(むね)ビレで手摺(てすり)下方(かほう)()した。
()てみろよ」

(うなが)されて、(あかつき)欄干(らんかん)()()った。
そのまま()っこちそうな(いきお)いだ。(よう)が、(あわ)てて(となり)()く。
(あおい)は、(あと)から慎重(しんちょう)(ちか)づいた。
手摺(てすり)(なら)んで、三人(さんにん)(そろ)って(いき)()んだ。

本当(ほんとう)に、地下(ちか)(かい)になっている。
(たか)い。ダンジョンの最上階(さいじょうかい)だ。
貴婦人像(きふじんぞう)が、(はる)(した)()える。

地下(ちか)(そこ)は、(おどろ)くほど変化(へんか)していた。
(みどり)()が、一面(いちめん)(おお)いつくしている。
うねる(つる)から()びた(あか)いバラが、点々(てんてん)()いていた。
さながら、(つる)バラの(うみ)だ。

貴婦人像(きふじんぞう)にも、(つる)バラが()()がっていた。
まるで、ぶわりと(ひろ)がるスカートを(まと)っているように()える。
緑地(みどりじ)の、バラ()のドレスだ。

「ああ、そうか。やっぱり両脇(りょうわき)から()えてる」
ひとしきり見渡(みわた)していた(あおい)が、納得(なっとく)したように(つぶや)いた。
(あかつき)(よう)が、「なに?」って(かお)()けてくる。

(あおい)は、建物(たてもの)(はさ)まれた地下(ちか)(かべ)を、交互(こうご)(ゆび)さしてみせた。(みぎ)(ひだり)
両脇(りょうわき)(かべ)は、(いわ)じゃなくて(つち)だろ」
(たし)かにそうだ。
(くろ)(つち)所々(ところどころ)から、(にじ)()地下水(ちかすい)(なが)()ちている。

「さっき、ド・ジョーがシャッフルする(まえ)も、へばりつくみたいに植物(しょくぶつ)()えてたんだ。(はな)()いてなかったけど」
それが、(いま)や、増殖(ぞうしょく)して()(しげ)っているのだ。
(つち)(かべ)に、無数(むすう)(りょく)(せん)()いて。

「よく()()いたなあ」
「すごいね、(あおい)
二人(ふたり)は、(こころ)から感心(かんしん)した。素直(すなお)反応(はんのう)だ。
(あおい)は、(すこ)(あか)くなって、そっぽを()いた。
()れている。

ド・ジョーの片目(かため)が、にやっと()()がった。
三人(さんにん)とも、まだまだ、かわいいもんだ。

「さて、ネズミの(おく)さんよ。調達(ちょうたつ)してくる(もの)(なん)だ?」
金色(きんいろ)のドジョウは、ピンク(いろ)のネズミに()いかけた。

ちょこんと(ゆか)()ったネズミは、()()って(まく)()てる。

「はーい! 表布おもてぬの使つかうバックサテンシャンタン、裏布うらぬのようにカツラギね。それから、チュール30デニールと50デニール。ツンの部分ぶぶんに、パワーネットソフトのしろよ。オーバースカートにオーガンジーもね」

()って!」
「ストップ!」
「もう一回(いっかい)!」
(あかつき)(あおい)(よう)は、口々(くちぐち)()めた。
単語(たんご)のほとんどが、()からない。

「それ、ネズミ()?」
(あおい)が、(かお)をしかめる。

マダム・チュウ(プラス)999(スリーナイン)は、陽気(ようき)()った。
「やだあ。全部(ぜんぶ)布地(ぬのじ)名前(なまえ)よ。チュチュのパーツによって、いろんな種類(しゅるい)必要(ひつよう)なわけ」

「なんだあ、(ぬの)名前(なまえ)なんだ。なにかの呪文(じゅもん)かと(おも)ったよ」
(あかつき)が、屈託(くったく)なく(ひょう)した。
「でも、(おぼ)えられそうにないなあ」
(よう)が、正直(しょうじき)(こぼ)す。

すると、オネエなネズミは、ますます()()った。
大丈夫(だいじょうぶ)よん。アタシがメモも()いておいたわ! ばっちりよ」

ごそごそ
マダム・チュウ+999は、(ちい)さな前足(まえあし)でピンク(いろ)(からだ)(さぐ)()した。

ぴょこん
(わき)(した)から、メモ(ちょう)()てきた。

いや、どうして(からだ)から()()る? 
ツッコもうと(くち)(ひら)きかけた(あおい)が、(ひら)いたメモの()()て、絶句(ぜっく)した。

ものすごく(きたな)い。
(なに)()いてあるかすら、()からない。

そういえば、(よう)幼稚園(ようちえん)(ころ)、こんな()()いていたものだ。
(あおい)根気(こんき)(づよ)(おし)えたお(かげ)で、小学校(しょうがっこう)入学(にゅうがく)までに、ようやく判別(はんべつ)できる()()けるようになったのである。

あのときは大変(たいへん)だった……。
保育(ほいく)(えん)時代(じだい)(おも)()(よみがえ)って、(あおい)は、はとこの(かお)()た。

正直(しょうじき)(よう)(かお)には、「だめだこれ、どうしよう?」と()いてある。
でも、(やさ)しさで言葉(ことば)にはしない。

(あかつき)も、さすがに笑顔(えがお)()えていた。
()めないよ、これじゃ」などと、心無(こころな)いことは()わない幼馴染(おさななじみ)だ。
ネズミだもんね、これが精一杯(せいいっぱい)なのかな。
そう(おも)いやっているのが、(あおい)には()かる。

だが、これでは、ほぼ()めません。
どうしたら()まずくなく、(こころ)(きず)つけず、円滑(えんかつ)かつ確実(かくじつ)に、そう(つた)えられるのだろうか?
(あおい)は、思考(しこう)(ふか)(ぬま)(おちい)った。

沈黙(ちんもく)が、(ひろ)げられたメモ(ちょう)()(かこ)面々(めんめん)(かん)()ちた。

ピンク(いろ)のネズミは、(はな)をひくひくさせて、きょとんと()っている。
外見(がいけん)は、大変(たいへん)かわいらしい。

(すべ)てを(さっ)した金色(きんいろ)のドジョウは、手摺(てすり)(うえ)で、(ふか)溜息(ためいき)をついた。

「ととと、とにかく()こうか!」
どもりながらも、(あかつき)()()した。
こくこく、(こえ)()(よう)(うなず)く。
(あおい)(ほほ)が、()きつった。
ばっちり、どころじゃない。ダメかも。

応援よろしくお願いします!

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 ファンタジー・SF小説ランキング
ファンタジー・SF小説ランキング

免責事項・著作権について リンクについて