カイコン(総フリガナ版)

23.魂振り(総フリガナ版)

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23.魂振たまふり

ニャアーオーウ……!
鋭(するど)い鳴(な)き声(ごえ)が、響(ひび)き渡(わた)った。
三匹(さんびき)。いや、三人(さんにん)の「ネコ耳(みみ)」の声(こえ)だ。

「気(き)を付(つ)けろ!」
裃(かみしも)姿(すがた)の和尚(おしょう)が、じりじりと退(ひ)いた。
ちさと&千里(せんり)も、油断(ゆだん)なく倣(なら)って後退(こうたい)する。

カタカタカタ……
お地蔵(じぞう)様(さま)が、小刻(こきざ)みに揺(ゆ)れていた。
明(あき)らかに「魂振(たまふ)り」の効果(こうか)だ。

すぽーん!
いきなり、お地蔵(じぞう)様(さま)が跳(は)ね上(あ)がった。
まるでシャンパンの栓(せん)が抜(ぬ)けたような音(おと)を立(た)てて、宙(ちゅう)に躍(おど)り上(あ)がる。

「和尚(おしょう)、キャッチして!」
ちさとが、素早(すばや)く言(い)い放(はな)った。
石(いし)で出来(でき)たお地蔵(じぞう)様(さま)だ。落(お)ちたら割(わ)れてしまう。もし人(ひと)に当(あ)たったら、大怪我(おおけが)だ。

和尚(おしょう)の反応(はんのう)も早(はや)い。瞬時(しゅんじ)に飛(と)び上(あ)がって、飛(と)んでいくお地蔵(じぞう)様(さま)を追(お)った。

「うおっとお」
空中(くうちゅう)で、かろうじてキャッチする。
ずっしりと重(おも)い。
ボールなんかとは訳(わけ)が違(ちが)う。
抱(かか)えたまま飛(と)び続(つづ)けるのは、とうてい無理(むり)だ。

「オレも行(い)かなくていい?」
目(め)で追(お)っていた千里(せんり)が、ちさとに尋(たず)ねた。
上空(じょうくう)にいる和尚(おしょう)が、歯(は)を食(く)いしばって、ゆっくりと落下(らっか)していくのが見(み)える。
根性(こんじょう)で、お地蔵(じぞう)様(さま)を抱(かか)えたまま、地面(じめん)に下(お)ろすつもりだ。

「和尚(おしょう)なら、一人(ひとり)で大丈夫(だいじょうぶ)。さあ、来(く)るわよ」
ちさとは、静(しず)かに促(うなが)した。
視線(しせん)は、一瞬(いっしゅん)たりとも、お地蔵(じぞう)様(さま)が祀(まつ)られていた場所(ばしょ)から逸(そ)らさない。

ずずずず……
立(た)っている地面(じめん)が、揺(ゆ)れ始(はじ)めた。
どんどん激(はげ)しくなっていく。
何(なに)かが、地中(ちちゅう)で動(うご)いているみたいだ。
巨大(きょだい)な「何(なに)か」が。

ぶわっ!
突然(とつぜん)、お地蔵(じぞう)様(さま)が置(お)かれていた場所(ばしょ)から、どす黒(ぐろ)い色(いろ)が噴(ふ)き出(だ)した。

ちさとが、物(もの)も言(い)わず飛(と)び上(あ)がった。
今日(きょう)は、ぴったりしたライダースーツ姿(すがた)だ。
勇(いさ)ましい上(うえ)に、100点(てん)満点(まんてん)のプロポーションである。

千里(せんり)も、同時(どうじ)に飛(と)んだ。
こちらは、洒落(しゃれ)た軍服(ぐんぷく)を思(おも)わせるスーツだ。
人形(にんぎょう)顔負(かおま)けの端麗(たんれい)な容姿(ようし)に、恐(おそ)ろしいほど似合(にあ)っている。

その整(ととの)った眼差(まなざ)しが、驚(おどろ)きで瞬(またた)いた。
「エネルギーチップ?」

一見(いっけん)、どす黒(ぐろ)い柱(はしら)だ。
だが、よく見(み)ると、それは膨大(ぼうだい)な数(すう)のコインで出来(でき)ていた。
後(あと)から後(あと)から噴(ふ)き出(だ)して、太(ふと)い柱(はしら)を作(つく)り出(だ)しているのだ。

「まだチップが出(で)てくるわけないわ。魂振(たまふ)りしただけだもの」
ちさとが、冷静(れいせい)に指摘(してき)する。

二人(ふたり)は、柱(はしら)から距離(きょり)を取(と)って見守(みまも)った。
ずざざざーっ!
まだまだ、出(で)て来(く)る……。

「うお~い、お待(ま)たせ。お地蔵(じぞう)さん、下(お)ろして来(き)たぜ~い」
和尚(おしょう)が飛(と)んで来(き)た。
二人(ふたり)の傍(そば)に浮(う)くと、際限(さいげん)なく出(で)て来(く)る柱形(はしらがた)のオブジェに、息(いき)を呑(の)む。

「予想(よそう)通(どお)り、デカそうだな」
和尚(おしょう)の言葉(ことば)に、ちさとが頷(うなず)いた。
「荒魂(あらみたま)は、生(い)き物(もの)の形(かたち)を取(と)ることが多(おお)いわ。きっと、ここから変化(へんか)する」

長(なが)い柱状(はしらじょう)の生(い)き物(もの)。
それは何(なに)だろう。

すると、突然(とつぜん)、和尚(おしょう)が頭(あたま)を抱(かか)えて喚(わめ)いた。
「あ~、しまったあ! 交番(こうばん)に連絡(れんらく)しとくの忘(わす)れてた!」
「またですか、和尚(おしょう)」
「だって、ガキや爺(じい)ちゃんの姿(すがた)だと、そこから説明(せつめい)しなきゃで面倒(めんどう)くさいじゃん。ゼロちゃんも気(き)づいてたら教(おし)えてくれよう」
「いやあ、私(わたし)も忘(わす)れてました」

服(ふく)と漫才(まんざい)でもしているような有様(ありさま)だ。
見(み)かねて、千里(せんり)が口(くち)を挟(はさ)んだ。
「あの、採掘(さいくつ)の届出(とどけで)は、オレがしておいたから。ちさとも一緒(いっしょ)に」

ころっと、トラ猫(ねこ)と裃(かみしも)は言(い)い合(あ)いを止(や)めた。
「あ、そなの。あんがとさん。よかったあ、怒(おこ)られねえで済(す)むぜ」

確(たし)かに、下(した)では人々(ひとびと)が騒(さわ)ぎ出(だ)している。

「そういや、千里(せんり)って、全然(ぜんぜん)変化(へんか)しなかったもんなあ。ずっと、その年頃(としごろ)のまんまだったろ。もしかして、それも最新機(さいしんき)の機能(きのう)?」
のんきに尋(たず)ねてくる。

「い、いや。オレは発症(はっしょう)した年(とし)が若(わか)かったから、振(ふ)り幅(はば)が狭(せま)いんだろうって。宇賀神(うがじん)室長(しつちょう)さんが言(い)ってた」
「ああ、あの変人(へんじん)室長(しつちょう)な」

呆(あき)れた肝(きも)の太(ふと)さだ。
和尚(おしょう)は、普段(ふだん)通(どお)りに話(はな)しかけてくる。
これから荒事(あらごと)に挑(いど)む局面(きょくめん)だというのに。

たまらず、千里(せんり)が窘(いさ)めようとしたところで、警戒音(けいかいおん)が鳴(な)り響(ひび)いた。
自分(じぶん)の着(き)ているスーツからだ。

「緊急(きんきゅう)時(じ)のため、音声(おんせい)オフを強制(きょうせい)解除(かいじょ)。急激(きゅうげき)な荒魂(あらみたま)の増幅(ぞうふく)を探知(たんち)。もっと離(はな)れて下(くだ)さい!」

早口(はやくち)だ。スーツに急浮上(きゅうふじょう)したフォースの目(め)が、吊(つ)り上(あ)がっている。

ばっ
三人(さんにん)のネコ耳(みみ)は、急速(きゅうそく)後退(こうたい)した。
誰(だれ)一人(ひとり)、狼狽(うろた)えて遅(おく)れたりはしない。

ずざああああああっ!!!

どす黒(ぐろ)い柱(はしら)が、一気(いっき)に太(ふと)さを増(ま)した。
比較(ひかく)にならない量(りょう)だ。桁違(けたちが)いに激(はげ)しく噴(ふ)き出(だ)してくる。

ウ~ ウ~……
防災(ぼうさい)サイレンが、辺(あた)りに鳴(な)り響(ひび)き始(はじ)めた。

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