カイコン(総フリガナ版)

27.蛟(総フリガナ版)

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27.蛟みずち

黒猫(くろねこ)の耳(みみ)に付(つ)いたイヤリングは、ちさとの右手(みぎて)に秒(びょう)で移動(いどう)していた。
蛟(みずち)の目(め)に翳(かざ)されるや否(いな)や、ふっ飛(と)んで行(い)く。

小(ちい)さな銀色(ぎんいろ)の勾玉(まがたま)は、一瞬(いっしゅん)でローラーで引(ひ)き延(の)ばされたみたいに広(ひろ)がった。
ぴしっ!
蛟(みずち)の右目(みぎめ)に嵌(は)まる。

きゅうううぅ……

蛟(みずち)が、力(ちから)なく鳴(な)いた。
ぐたり
もたげていた頭(あたま)が、下(さ)がってゆく。

「やったか?」
ぶっとい縄(なわ)を裃(かみしも)に回収(かいしゅう)しつつ、和尚(おしょう)が問(と)いかけた。

「分(わ)からない。けど、たぶん違(ちが)うわ。見(み)て、エネルギーチップに変化(へんか)しないもの」

二人(ふたり)は、用心(ようじん)しつつ下降(かこう)した。
巨大(きょだい)な頭(あたま)が、ぐったりと川(かわ)に浮(う)かんでいる。

ちさとは、カイコンを嵌(は)めた筈(はず)の目(め)を見(み)た。
「ほら、おかしいわ。カイコンが、目(め)と同(おな)じ形(かたち)になっていない」

今回(こんかい)の荒魂(あらみたま)は、まん丸(まる)の目(め)をしている。
血(ち)を思(おも)わせる赤(あか)い色(いろ)だ。
巨体(きょたい)のわりに、目(め)は小(ちい)さかった。両腕(りょううで)で包(つつ)み込(こ)めるほどの大(おお)きさである。

魂振(たまふ)りを行(おこな)えば、カイコンも全(まった)く同(おな)じ形(かたち)になり、ぴったりと嵌(は)まる筈(はず)なのだ。

だが、銀色(ぎんいろ)のカイコンは、赤(あか)い円(えん)の中(なか)で違(ちが)う形(かたち)を取(と)っていた。
ぺったんこの勾玉(まがたま)の形(かたち)である。

「う~ん。なんかどっかで見(み)た模様(もよう)だなあ」
和尚(おしょう)も覗(のぞ)き込(こ)んで首(くび)を捻(ひね)る。

曲(ま)がった尾(お)を引(ひ)く勾玉(まがたま)が、二(ふた)つ。
円(えん)の中(なか)に、互(たが)い違(ちが)いになって、ぴったりと嵌(は)まる図柄(ずがら)だ。

「勾玉(まがたま)巴(ともえ)っていうんですよ、和尚(おしょう)」
「お、よく知(し)ってるな、ゼロちゃん」
「ほんとですね。なんで知(し)ってるんでしょ」

漫才(まんざい)コンビは放(ほう)っておいて、ちさとは荒魂(あらみたま)の目(め)に手(て)を伸(の)ばした。

かちゃり
銀色(ぎんいろ)が外(はず)れた。
ふわりと、ちさとに戻(もど)って来(く)る。

「でも元(もと)に戻(もど)らないね」
ライダースーツから、ニゴちゃんが指摘(してき)した。
ちさとが手(て)に持(も)ったというのに。
こんなの初(はじ)めてだ。

勾玉(まがたま)の形(かたち)に切(き)り抜(ぬ)かれた、薄(うす)い銀色(ぎんいろ)の板(いた)。
いっぷう変(か)わった形(かたち)の鏡(かがみ)みたいだ。

う~ん
みんなで唸(うな)る。さっぱり分(わ)からない。

「とりあえず、こっちが頭(あたま)で合(あ)ってたんだよなあ?」
和尚(おしょう)が、ぐいんと上昇(じょうしょう)した。川面(かわも)を見下(みお)ろして、首(くび)を傾(かし)げる。

大蛇(だいじゃ)の体(からだ)は、ぷかぷかと浮(う)かんで来(き)ていた。
後(うし)ろに付(つ)いた尻尾(しっぽ)も、ちゃんと見(み)える。
それにしても、長(なが)い。鱗(うろこ)に覆(おお)われた胴体(どうたい)が、延々(えんえん)と隅(すみ)田川(だがわ)の上流(じょうりゅう)へ続(つづ)いている。

はっ
和尚(おしょう)の目(め)が、見開(みひら)かれた。

ちさとも、同時(どうじ)に気付(きづ)いて叫(さけ)んだ。
「二(ふた)つに分(わ)かれてる!?」

胴体(どうたい)が、途中(とちゅう)で二股(ふたまた)に分(わ)かれているではないか。
もう一(ひと)つの胴(どう)は、この隅(すみ)田川(だがわ)にではない、分岐(ぶんき)した流(なが)れの方(ほう)へと続(つづ)いている。

「分(わ)かったぞ! あっちにも、きっと頭(あたま)があるんだ!」
和尚(おしょう)が、先(さき)にダッシュで飛(と)んで行(い)く。

「ニゴちゃん、風呂敷(ふろしき)出(だ)して!」
「ハイ!」
ぽん! と出(で)て来(く)る。勾玉(まがたま)模様(もよう)のサイケな布柄(ぬのがら)だ。
とりあえず勾玉(まがたま)鏡(かがみ)を包(つつ)んで背負(せお)うと、ちさとも後(あと)を追(お)った。

「どういうことなの、ちさと?」

高速(こうそく)で飛(と)びながら、ちさとは麗(うるわ)しい顔(かお)を歪(ゆが)ませた。

「蛟(みずち)は、双頭(そうとう)の蛇(へび)だったのよ。だから、片方(かたほう)の頭(あたま)だけにカイコンを嵌(は)めても、和魂(にぎみたま)にならなかったんだわ」

急(いそ)がなくちゃ。
もう一方(いっぽう)の頭(あたま)は、まだ元気(げんき)なのだ。

「千里(せんり)ったら、きっと向(む)こうに行(い)っちゃってるんだわ!」

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