カイコン(総フリガナ版)

32.悔恨(総フリガナ版)

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32.悔恨かいこん

「糸(いと)が止(と)まったわ。千里(せんり)、こっちに来(き)て! 和尚(おしょう)が中(なか)にいるの! ここを斬(き)って!」
ちさとに大声(おおごえ)で呼(よ)ばれて、双子(ふたご)が二人(ふたり)とも飛(と)んで来(き)た。

改(あらた)めて見(み)ても、全(まった)く同(おな)じ容姿(ようし)だ。
だが、片割(かたわ)れだけが、へとへとだった。

「千里(せんり)、大丈夫(だいじょうぶ)? オレがやろうか?」
全(まった)く区別(くべつ)がつかないが、ばてている方(ほう)が千里(せんり)らしい。

「いや、オレ、やる……」
ぜいぜい言(い)いながら、鉾(ほこ)になっていたクサナギを剣(つるぎ)に変(か)える。
真(ま)っ白(しろ)な宝剣(ほうけん)のお出(で)ましだ。

ひゅう~っ
休(やす)む間(ま)もなく、上(うえ)から蛟(みずち)の頭(あたま)が襲(おそ)って来(き)た。
もう一方(いっぽう)の頭(あたま)は、いまだ元気(げんき)いっぱいだ。
矢(や)と手裏剣(しゅりけん)が所々(ところどころ)刺(さ)さっているというのに、ゆうゆうと尻尾(しっぽ)の方(ほう)まで遠征(えんせい)して来(く)る。

「今(いま)それどころじゃないのよ!」
裂帛(れっぱく)の気合(きあい)を込(こ)めて、ちさとが矢(や)をぶっ放(ぱな)した。

万里(ばんり)も、一瞬(いっしゅん)で手裏剣(しゅりけん)を剣(けん)に変(か)えた。
これで武器(ぶき)までお揃(そろ)いになる。
兄(あに)を背中(せなか)に護(まも)って、蛟(みずち)の顔(かお)を睨(にら)みつける。
きりっとした表情(ひょうじょう)も、様(さま)になることこの上(うえ)ない。

千里(せんり)は、よろよろと剣(つるぎ)を振(ふ)りかぶった。
急(いそ)がなくちゃ。そろそろ時間(じかん)が無(な)い。
そのとき。

ぼこ
いきなり、音(おと)と共(とも)に、蛟(みずち)の尻尾(しっぽ)から何(なに)かが生(は)えて来(き)た。

銀色(ぎんいろ)の棒(ぼう)? いや、剣(つるぎ)か?
鱗(うろこ)を突(つ)き破(やぶ)って、ひょこひょこと動(うご)いている。

不思議(ふしぎ)な眺(なが)めだった。
ぎこぎこ斬(き)っているというより、どうも鱗(うろこ)の方(ほう)が刀身(とうしん)を避(よ)けているような塩梅(あんばい)である。

呆然(ぼうぜん)と見つめる千里(せんり)の前(まえ)で、ぼっこりと穴(あな)が空(あ)いた。

「いよっとお」
なんと、和尚(おしょう)が出(で)て来(き)た。
こんな事態(じたい)だというのに、緊張感(きんちょうかん)の欠片(かけら)も無(な)い掛(か)け声(ごえ)である。
しかも、飛(と)び出(だ)す玩具(おもちゃ)そっくりな動(うご)きだ。

「お、和尚(おしょう)!」
千里(せんり)が、慌(あわ)てて自分(じぶん)の剣(けん)をひっこめた。
あやうく、和尚(おしょう)もろとも、ぶった切(ぎ)るところだ。ダブルで安堵(あんど)して、深(ふか)く息(いき)をつく。

「無事(ぶじ)ね」
「おうよ」
ちさとは、それだけ聞(き)くと、さっさと飛(と)び去(さ)った。
見上(みあ)げると、もうガンガンに矢(や)を放(はな)って、蛟(みずち)と交(こう)戦中(せんちゅう)である。

「素晴(すば)らしい切(き)り替(か)えの早(はや)さだな」
和尚(おしょう)は、苦笑(にがわら)いしつつ、双子(ふたご)に目(め)を移(うつ)した。

何故(なぜ)だろう。ここで、和尚(おしょう)の顔(かお)が、はっきりと曇(くも)った。

双子(ふたご)の一人(ひとり)は、剣(つるぎ)を下(お)ろして、ほっとした笑(え)みを浮(う)かべている。

もう一人(ひとり)も、振(ふ)り返(かえ)ると、同(おな)じ笑顔(えがお)を見(み)せた。
こっちは剣(つるぎ)を構(かま)え、蛟(みずち)の頭(あたま)が襲(おそ)ってくるのを警戒(けいかい)している。

瓜(うり)二(ふた)つだ。
まったく同(おな)じ顔(かお)。同(おな)じ服(ふく)。同(おな)じ武器(ぶき)。

「千里(せんり)、」
それなのに、和尚(おしょう)は迷(まよ)うことなく話(はな)し掛(か)けた。

「色々(いろいろ)と分(わ)かったことがある。だけど、今(いま)は荒魂(あらみたま)だ。早(はや)く楽(らく)にしてやりたい。こいつは、お前(まえ)さんが使(つか)ってくれ」

いきなり和尚(おしょう)が差(さ)し出(だ)した宝剣(ほうけん)に、千里(せんり)が目(め)を剥(む)いた。
軍服(ぐんぷく)スーツに浮(う)かんだフォースの目(め)も、まん丸(まる)になる。
「なんなんですか、これ?! クサナギと同種(どうしゅ)の力(ちから)ですが、パワーが桁違(けたちが)いです。計測(けいそく)不能(ふのう)ですよ!」

「あ~、中(なか)で拾(ひろ)った。神剣(しんけん)ヤツカだって。いや、貰(もら)ったんでいいの? ゼロちゃん」
「ええ、いいでしょ。持(も)ってっちゃ駄目(だめ)って言(い)われなかったですし」
神剣(しんけん)なのに、果(は)てしなく軽(かる)い扱(あつか)われようだ。

恐(おそ)る恐(おそ)る、千里(せんり)が受(う)け取(と)った。
「……不思議(ふしぎ)な形(かたち)だね」
刀身(とうしん)の左右(さゆう)に、三本(さんぼん)づつ、小(ちい)さな枝刃(えだは)が生(は)えている。実用的(じつようてき)な形(かたち)とはいえない。

「オレ、これを扱(あつか)えるかな、フォース?」
同期(どうき)しているシルキングの武器(ぶき)とは、わけが違(ちが)う。しかも神剣(しんけん)さまだ。

「やってみましょう。すみません、和尚(おしょう)さま。クサナギに血(ち)を一(いっ)滴(てき)垂(た)らして下(くだ)さいませんか」
「「和尚(おしょう)さま……」」
めったに呼(よ)ばれない敬称(けいしょう)に、思(おも)わずハモる和尚(おしょう)&ゼロである。

ぷぷ、と笑(わら)いがこみ上(あ)げたところに、上空(じょうくう)から叱責(しっせき)が飛(と)んできた。
「ちょっと! 早(はや)くして!」
ちさとだ。
たった一人(ひとり)で攻撃(こうげき)を担(にな)っているのだ。

「へいへい」
がぶっと、和尚(おしょう)は左(ひだり)の人差(ひとさ)し指(ゆび)を噛(か)んだ。
そうだ、ゼロちゃんと同期(どうき)できるか試(ため)したときも、こんなふうにしたよな。

痛(いて)えな。でも、これが俺(おれ)だよ。
ちゃんと、確(たし)かめてもらわねえとな。

ぽたり
赤(あか)い血(ち)を、白(しろ)い剣(けん)の柄(え)に落(お)とす。

ぶわり!

千里(せんり)は、驚(おどろ)いて目(め)を見開(みひら)いた。
クサナギが、一瞬(いっしゅん)で溶(と)けたのだ。
真(ま)っ白(しろ)な糸(いと)の固(かた)まりと化(か)して、あっという間(ま)に宝剣(ほうけん)を包(つつ)み込(こ)む。

次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)。
手(て)に持(も)っていた二本(にほん)の剣(けん)は、一本(いっぽん)になっていた。

どこもかしこも真(ま)っ白(しろ)な剣(けん)だ。
でも、クサナギのフォルムじゃない。
一(ひと)つの刀身(とうしん)に六(むっ)つの枝刃(えだは)を備(そな)えた、七(しち)支刀(しとう)になっている。

「融合(ゆうごう)に成功(せいこう)しました。これで使(つか)えますよ、千里(せんり)坊(ぼっ)ちゃま」
フォースの目(め)が、穏(おだ)やかに笑(わら)う。

ゼロちゃんまで、口(くち)を出(だ)した。
「ああ。この剣(つるぎ)の名(な)は、ヤマツミだそうです。ここの皆(みな)さんが、今(いま)教(おし)えてくれました」
「ヤマツミ。なるほど、山(やま)の神(かみ)という意味(いみ)ですね。千里(せんり)坊(ぼっ)ちゃまに、ぴったりです」

勝手(かって)に、服(ふく)同士(どうし)で話(はなし)が進(すす)んでいる。
片割(かたわ)れの万里(ばんり)だけが、心配(しんぱい)そうな顔(かお)で尋(たず)ねた。
「行(い)けそうか、千里(せんり)?」

力強(ちからづよ)く頷(うなづ)くと、千里(せんり)はヤマツミの柄(え)を握(にぎ)った。
これで最後(さいご)だ。やらいでか。

二人(ふたり)のやり取(と)りを、和尚(おしょう)は静(しず)かに見(み)つめていた。彼(かれ)らしくない表情(ひょうじょう)である。

でも、それも束(つか)の間(ま)。
ぱっと笑(わら)うと、やんちゃ坊主(ぼうず)みたいな顔(かお)に戻(もど)った。
「よっしゃ。もたもたしてっと、お姉(ねえ)さんに叱(しか)られちゃうぜ」

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