『名画の詩集』
嫉妬
~上村松園「焔」より~
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上村松園(うえむら しょうえん)
「焔(ほのお)」1918年
勝ち負けで言ったら
とうに負けていた
あの女の 守られた立場
私の身には
それを押し退けるほどの力は無くて
あの女から 萌え出づる若葉
私の身には
それを凌駕する香りを纏う華が
咲いていなかった
そういうことなんでしょう?
あなたが下さる 甘い言葉よりも
あなたがなさる つれない仕打ちが真実
分かっているくせに
認めずに
顔を背けていたのは 私
ひたすらに自分を磨けば
全てが叶うと思っていた
蔓を あなた一人に巻き付けて
咲かせた恋の花は
重たげに ぶら下がり
耐え切れず 身を捩っている
大地に根を張って
自分一人で立つ樹になれたら
咲かすのは
小さくても香り立ち
実を結ぶ
梅の花であっただろうに
怨むのは あなただけでいい
それなのに
嫉妬の焔は 恋しい貴方を避けて
まっすぐに
あの女へ向かって走っていく

六条御息所(ろくじょうの みやすどころ)
紫式部作 「源氏物語」
六条御息所は、その登場人物。
上村松園は、そのエピソードを主題として、この作品を描きました。
六条御息所は、教養と品位に満ちた女性。
身分も高貴です。元、東宮妃。つまり、プリンスの正妻だったんですね。
プリンスの死後、未亡人となっていたところを、イケメン主人公光源氏君がゲット。恋仲となります。
しかし、光源氏には正妻がいた。
さらに、他にも恋人が複数いた。
誇り高い六条御息所は、嫉妬に苦しみます。
最初は彼女の高貴さに酔いしれていた光源氏も、次第に足が遠のいていく。
これは、あれですかね。男の勲章として誇れるけれど、ずっと付き合うには肩が凝るってやつ。
お高い態度も、鼻についてしまったのかも。
やがて、正妻の「葵の上(あおいのうえ)」が、光源氏の子供を身籠みごもります。
ついでに、従者同士でトラブルが勃発。
負けたのは、六条御息所の側。
プライドは粉々です。
六条御息所の感情は、もはや抑えきれなくなってしまいました。
ついに生霊となって、葵の上を取り殺してしまうのです。
注:原作では、はっきりと「六条御息所の生霊が殺した」とは書いていません。
ただ、暗示しているだけ。
恋人の「夕顔の君」も殺っちゃってます。これも、読者にはお見通し。
この画の作者、上村松園は、女性の画家。
清らかで美しく、優し気な女性の絵を得意としました。
その中で異色の作とされるのが、この「焔(ほのお)」。
生霊ですものね。足元は霞み、この世のものではない感を演出しています。
でも、単に邪悪な姿を描いているようには見えない。
しょうがないよね。怨んじゃうよね。
自分じゃ、どうしようもないんだよね。
うんうん。頷きながらも、画家の目が冷静に捉えている。
六条御息所の、自分を捨てきれない頑なさ。
苦しみは、結局、自分を守るためのもの。
愛する者を守るためではなくて。
そして、攻撃の矛先が、相手の女へと向かってしまう。
その、いやらしさ……。
女が、女を描く。
賛美や嫌悪、そんなシンプルな視点は、そこには無い。
自分の人生観や好き嫌い、果てはドロドロの感情までもが。
絵筆に溶け込んで、画に表れてくるのではないでしょうか。
※この一番下に、詩の総フリガナ版を掲載しています

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嫉妬~上村松園「焔」より~
勝ち負けで言ったら
とうに負けていた
あの女の 守られた立場
私の身には
それを押し退けるほどの力は無くて
あの女から 萌え出づる若葉
私の身には
それを凌駕する香りを纏う華が
咲いていなかった
そういうことなんでしょう?
あなたが下さる 甘い言葉よりも
あなたがなさる つれない仕打ちが真実
分かっているくせに
認めずに
顔を背けていたのは 私
ひたすらに自分を磨けば
全てが叶うと思っていた
蔓を あなた一人に巻き付けて
咲かせた恋の花は
重たげに ぶら下がり
耐え切れず 身を捩っている
大地に根を張って
自分一人で立つ樹になれたら
咲かすのは
小さくても香り立ち
実を結ぶ
梅の花であっただろうに
怨むのは あなただけでいい
それなのに
嫉妬の焔は 恋しい貴方を避けて
まっすぐに
あの女へ向かって走っていく





































