挑戦 ~ルドン「笑う蜘蛛」より~

『名画の詩集』

挑戦

~ルドン「笑う蜘蛛」より~

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L’araignée souriante  Odilon Redon 1887 

蜘蛛(くも)にされても
笑っているのは なぜ?

アラクネ
女神さまと機織(はたお)り勝負した娘
傲慢(ごうまん)の報いだと 人は(そし)るけれど
違う あなたは負けてなかった

AI(エーアイ)と複数人による公正な判定は
ギリシャ神話の時代では 無理だっただけ

女神さま相手だって勝ちたい
一歩も退()かない
真っすぐで野蛮な闘志

みんな 欲しいでしょ?
勝負のコートに立つ時
へにゃへにゃになりそうな心が
喉から手が出るほど求めてる

そう 今

アラクネ
神頼みを口にする前に
自分の努力を信じよう

あなたみたいに
全てを叩き出せたなら
負けって人に言われても
きっと笑えるね 誇らしげに

アラクネ
自分を育てたのは自分だと
啖呵(たんか)を切って
勝負の女神さまと ガチンコ勝負しよう

ちょっと雑談

前回の「キュクロプス」に引き続きギリシャ神話から、「蜘蛛になったアラクネ」のお話です。

「アテナ様がここに来て私と勝負すればいい」
アラクネが放ったセリフが引き金となり、二人の対決が始まります。

女神アテナは、技芸(ぎげい)(つかさど)る神。機織(はたお)りは、もちろん自分の管轄フィールドです。
対するアラクネは、ただの人間の娘。でも、並外れた技量を持っていました。人間だけでなく、妖精までが彼女の機織りを見物しに来るほど。

「素晴らしい。あなたの腕前は、女神アテナ様から直に授かったのですな」
誉め言葉で言われているのに、アラクネはムキになって否定しました。
「いいえ。私の腕は、私が自分で身につけたものです。神様なんて関係ないわ」

とうとう彼女の態度を見かねた女神アテナが、(たしな)めてやろうと腰を上げました。
老婆の姿に身をやつした相手に、アラクネが素のままで挑発し、バトルスタートです。

ディエゴ・ベラスケス「アラクネの寓話(織女たち)」1657

そして、機織り勝負が完了。
興味深いのは、どこにも「アラクネの作品が女神アテナの物より劣っていた」という記述が無いこと。
どちらも素晴らしい。甲乙つけがたい。
女神アテナの織物は、神々を描いたもの。「神様(あたし)って素晴らしい!」がテーマ。
対して、アラクネが織り上げたのは、ゼウス神が人間相手に繰り広げた、複数の恋愛模様。
正妻がいますから、要は不倫総集編なわけです。そして、ゼウスはアテナの父親。
あっぱれなケンカの売り方です。

だけど、その出来栄えときたら。技芸の神であるアテナには、他の誰よりもアラクネの実力が分かりました。
それがかえって怒りを増幅させます。リミッターが外れた女神アテナは、アラクネの布をズタズタに切り裂き、彼女の頭をさんざんに叩きました。さすがギリシャ神話、神様容赦ねえ。

耐えられなかったアラクネは、自殺。
さすがにそれを哀れんだ女神アテナが、魔法の草の汁を振りかけて、アラクネを蜘蛛に変えた。だから今でも、糸にぶら下がっているのですよ、というお話。

ルネ=アントワーヌ・ウアス「アテーナ―とアラクネ―」1706

でも、後半、なんか納得いかない。
どうしてアラクネは自殺したのか。

彼女は神様を信じていません。その相手から自分の作品を否定され、あげく破壊されたとしても、しおしおと嘆いて死ぬような玉ではないでしょう。
なにせ、自分から女神に勝負を仕掛けた娘です。怒り狂って、相手の織物も切り裂き返すんじゃないかな。

だから。きっとアラクネは、人に絶望したのではないかと思う。
それまでは、自分を誉めそやしてくれていた人、人、人……。
それが、女神がやって来て、自分を否定した途端。一人残らず、ころっと態度を変えて、口汚く罵ってくる。
身の程知らずな。神を(ないがし)ろにした娘よ。バチがあたって当たり前だ。

アラクネは、生まれつき才能があった娘。でも、女神に比肩するほどのレベルに達するためには、血の滲むような努力を重ねた筈です。一人きりで、若い日々を犠牲にして、ただ己の技量を磨き続ける……。
それが大勢の人に認められて、嬉しくて誇らしくて、「神様なんて、なんぼのもんじゃい!」状態になってしまった。

一瞬で、自分を支えていた城が崩れ落ちた時、彼女は死を選ぶしかなかったのだと思う。
なにやら現代にも通じるような気がします。

ルドンが描いた「笑う蜘蛛」L’araignée souriante 
どこにも、ギリシャ神話のアラクネだとは書いてありません。
でも、私には、不敵に笑う娘に見えました。

「なんだ、冷静になったら、私ぜんぜん負けてなかったじゃない」

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随時、更新していきます。お楽しみに!

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挑戦ちょうせん
~ルドン「(わら)蜘蛛(くも)」より~

蜘蛛(くも)にされても
(わら)っているのは なぜ?

アラクネ
女神(めがみ)さまと機織(はたお)勝負(しょうぶ)した(むすめ)
傲慢(ごうまん)(むく)いだと (ひと)(そし)るけれど
(ちが)う あなたは()けてなかった

AI(エーアイ)(ふく)数人(すうにん)による公正(こうせい)判定(はんてい)
ギリシャ神話(しんわ)時代(じだい)では 無理(むり)だっただけ

女神(めがみ)さま相手(あいて)だって()ちたい
一歩(いっぽ)退()かない
()っすぐで野蛮(やばん)闘志(とうし)

みんな ()しいでしょ?
勝負(しょうぶ)のコートに()(とき)
へにゃへにゃになりそうな(こころ)
(のど)から()()るほど(もと)めてる

そう (いま)

アラクネ
(かみ)(だの)みを(くち)にする(まえ)
自分(じぶん)努力(どりょく)(しん)じよう

あなたみたいに
(すべ)てを(たた)()せたなら
()けって(ひと)()われても
きっと(わら)えるね (ほこ)らしげに

アラクネ
自分(じぶん)(そだ)てたのは自分(じぶん)だと
啖呵(たんか)()って
勝負(しょうぶ)女神(めがみ)さまと ガチンコ勝負(しょうぶ)しよう

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